花霞のサラサラした髪をとかしながら、椋は苦笑気味にそう言った。すると、その髪が顔に触れたのか、花霞がくすぐったそうにしながらも、笑みを浮かべながらまた熟睡した。

 彼女が、寝るのを我慢して、気持ちを溢れさせて恥ずかしさを感じながらも椋を求めたのは嬉しい事だ。けれど、そこまで彼女に我慢させたのも事実だった。

 椋は反省をしながら、起こさないように花霞の頭にキスを落とすと、ゆっくりとベットから抜け出した。



 廊下に出てから、「さて………電話がどれぐらいきてるか………」椋は苦い顔をしながらゆっくりとリビングに向かった。


 そして、リビングに行きスマホを起動すると、案の定沢山の着信通知とメッセージが届いていた。
 どれもすべて会社の部下であり、椋の後に社長となる人物からだった。引き継ぎなどをしており、最近はこの部下と毎日のように話をしている。
 ボディーガードとしても、経営者としても優秀なのだが、いかんせん心配性なのだ。日本からいなくなるわけでもないので、わからない事があれば連絡しろと言っても、次から次へと質問が飛んでくるのだ。
 質問がくるというのは、よく内容を理解しており、自分の立場になって考えられている証拠だが、それでも多すぎるのだ。
 休日出勤しても、椋が社長を辞める日まで全ての事を話し終わるのか微妙なところまで来てしまった。

 そして、もちろん今日も仕事に行く予定だった椋だが、時間になっても来ないので、部下は心配をしてなのか、焦ってなのか、数分おきに電話をしてきていた。

 椋は、はーっと大きくため息をついて、スマホを見つめた。
 「どうやって今日は休みにするか………だな」と、呟き終わると同時にスマホがブブブッと震えた。

 椋は苦笑しながら、スマホの通話ボタンを押した。
 そこからの椋は、「今日は仕事にはいかない」と強く言い張り続け、何とか部下から休みの了解を獲たのだった。
 けれど、それには30分という説得の時間があったのを、花霞は知るはずもなかった。