椋が準備してくれていたのは、泡風呂だった。少しでも花霞がリラックス出来るようにと選んでくれたのだろう。広い湯船に2人で入る。花霞はあっという間に顔が赤くなってしまう。泡風呂でよかったなと感謝しながら、花霞はちらりと椋を見た。
椋はスポンジを持って、こちらを向いていた所だった。
「花霞ちゃん。おいで」
「え………?」
「身体、綺麗にしてあげる。いや、綺麗なんだけど………蛍の奴に触られてただろ?」
「……そんな…………ほんの少しだよ」
「それでもだめだ。」
椋は悔しそうにしながら、別れ際に蛍にキスされた頬を泡をつけて手で拭い始めた。
拗ねた顔の椋が少し可愛く思えて、花霞は思わず笑ってしまいそうになった。
「どこ触られた?」
「首とかお腹とかかな………」
「…………本当に油断も隙もない奴だ」
花霞に言われた通りの場所を椋は優しく拭いてくれる。
そんな彼を見て、花霞はゆっくりと語りかけた。
「………また、私が勝手にやった事。怒ってない?」
「………君から電話がかかってきた時とか、花霞ちゃんと蛍が話しているところを聞いた時は、驚いたし、すぐにでも助けに行きたかったよ。…………けど、花霞ちゃんが決めた事だ。俺は怒ってない………と言いたいけど、怒ってるかな。少しは相談して欲しかった」
「ごめんなさい…………少しでも、蛍くんが自分から話してくれるのを待ちたかったの。もし、この事を知ったら椋さんは止めたでしょ?」
「止めた」
「やっぱり」
クスクスと笑って花霞は、少し怒った顔の椋を見つめた。心配をかけた事、蛍のために無茶な助けをしてくれた事。花霞は感謝していた。
花霞のしている事を椋はきっとわかってくれると信じていた。あそこでもし、椋が電話に出てしまい通話がバレていたら。蛍の話しを聞く前に椋が花霞を助け出してしまったら。花霞の居場所がわからずに助けられなかったら。
全て彼は花霞が何も言わなくてもわかってくれたのだ。
やはり彼は警察というプロなのだと実感した。
彼の影からの助けがあってこそ、蛍を助けられた事に感謝していた。
そして、もう1つ彼の優しさに助けられた事があった。



