ニヤニヤと笑うハルトを見て、蛍は怪訝な表情を見せた。
友達など言われた事もなかったし、そんなつもりもなかった。
けれど、その言葉を聞いて蛍は全く嫌な気持ちにならなかったのだ。むしろ、今まで感じたことのないような、胸の高鳴りを感じた。
そんな気持ちに戸惑いながら、それがハルトにバレないように、蛍はわざと大きなため息をついた。
「俺はここでいいですよ。金さえ貰えれば………」
「ダメだ。………蛍、もっと楽しんだ方がいい。おまえにはこんな場所、似合わない」
「……………」
真剣な表情でそういうハルトを、蛍は無表情のまま見ていた。
また、言われた事などない言葉だった。無慈悲にただキーボードを叩いて、客を地獄に落とす。そんな事をたくさんしてきたのだ。
今更、太陽の下で笑って生活出来るはずもなかった。
こんな男を、必要としてくれる場所などあるはずもない。
「………ハルトさんの方が、こんな所にいるのが信じられないですよ」
「そうか?」
ハルトはニコッと笑って、注文したラーメンを店員から受け取って、「いただきます」と手を合わせた。
自分が裏社会に似合わない、はずなんてない。ここしか居場所がないのだから。
そう思っていても、ハルトの言葉は何故か蛍よ心をほんのりと温かくした。
そんな気持ちに戸惑い、そして少しだけ笑みがこぼれた。
彼の言葉を信じていいのだろうか。
いつか、自分もハルトのように明るく笑って、太陽の下を歩ける日がくるのだろうか。
そんな淡い期待をもてるようになった。
けれど、それも一瞬の事だった。
「ハルトはスパイだ」そんな噂が、組織の中で囁かれるようになったのだ。



