花霞は、ゆっくりと蛍に近づいた。
 椋は「近づかない方がいい」と止めたけれど、花霞は首を小さく横に振って、「大丈夫だよ」と言い、蛍の前に膝をつけて腰を下ろした。


 「蛍くんの目を見ればわかるよ。始めは本当に好きじゃなかったと思う。けど、少しずつ好きになってくれてたよね。ブーケ受けとる時、とても幸せそうな瞳になってた。キラキラしてたよ」
 「そんなのおまえの勘違いだろ!?何言って………」
 「じゃあ、嫌いな花をこの家に持ってきたの?嫌いなら、この部屋に来る前にどこかに捨てればいいのに。………どうして、私に花の長持ちする方法を伝えたの?育て方を伝えたの…………?」
 「そ、それは…………」


 蛍の瞳が揺らいだのを、花霞は見た。
 やはり、彼の中で迷いがあるのだ。
 それがわかり、花霞は少し安心した。

 蛍の心は、まだ復讐に染まりきっていない。きっと、花との出会いが彼を変えてくれた。
 そんな気がしたのだ。


 「警察に捕まってしまったら、あなたの気持ちを知ることが出来なくなってしまうわ。………お願い、私と椋にあなたの気持ちを教えて。蛍くんが何を思って、あんな事をしたのか。………何をしたかったのか………どんな事があったのか………。話してくれないかな」


 花霞は、俯いた蛍の顔を覗き込む。
 すると、そこにはただの幼い少年の表情があった。

 悲しみ、戸惑い………助けを求める。
 そんな蛍の表情を向けて、花霞は優しく微笑み掛けたのだった。