「やっと怖くなりましたか?安心して、とは言いませんけど酷いことはしないつもりなので」
 

 蛍の腕を掴む花霞の手が離れてしまいそうだったからか、蛍は花霞の手首をガッシリと掴んで花霞を引きずりながら歩いた。彼の手はとても冷たかった。

 蛍が向かったのは古びた小さなビルだった。
 いくつかの会社の事務所にもなっているようだったが、ほとんどが空いているのがわかった。コンクリートの階段を上がり、3階の1室の前で蛍は止まった。蛍が鍵を開けて、引っ張られるままに花霞が部屋に入る。すると、そこには広い空間があった。ボロボロの床に、コンクリートの壁、そして古びたテレビとその向かいには大きなソファがあった。窓から入り込む微かな外灯の光で、部屋の様子が少しずつわかってきた。壊れたテーブルの上にらパソコンが置いてあり、床よ至るところにゴミが散乱していた。そして、花も沢山置いてあった。それはすべて花霞に見覚えがあるもの。蛍が花屋に来て、花霞を指名し、花霞が作ったものだった。
 ほとんどか枯れており、無惨な姿になっていた。
 花のお墓のような場所に、またバサッと紫のブーケが蛍によって投げられた。

 
 「お客様には、一番いい場所を貸してあげるよ」
 「あ………きゃっ!!」


 花霞は、蛍に強く腕を引かれたと思ったら、今度は体を押され、そのまま後ろに倒れてしまう。衝撃に備えて花霞は目を閉じたけれど、体はどこも痛くなかった。倒れた先には、昔は立派だったのだろう大きな黒のレザーソファがあった。傷ついて中の綿が飛び出しているところがある。
 花霞が蛍の場所を探そうとした頃には、目の前にナイフを突きつけられていた。