「お前は人の誘いを基本的には断らないからな」

如月刑事がひざ掛けをふわりと藍のひざにかける。そして、ポンポンと藍の頭を優しく撫でた。大河は焦ったような表情を見せ、かばんの中を探る。

「あ、えっと、藍さん!これよかったら……」

藍に大河が手渡したのは、ヨーグルトドリンクだった。

「ここ、飲食禁止ですけど、突然こんな風に押しかけちゃったわけですし……。あとでまた飲んでください」

恥ずかしそうに大河はそう言い、前を向く。藍はお礼を言い、かばんの中にヨーグルトドリンクを入れた。

ブザーが鳴り響き、ホール内がゆっくりと暗くなっていく。舞台にスポットライトが当てられた刹那、音楽が鳴り響き衣装を身を包んだバレエダンサーたちが姿を見せ、踊り始めた。

軽やかに踊るダンサーたちを見て、藍の心は一瞬にして舞台の虜になっていく。如月刑事と大河も、バレエのことも魅力に舞台から目が離せないようだ。

普段で披露されているのは、三大バレエの一つの眠りの森の美女のようだ。台詞などはないが、物語がちゃんと伝わってくる。