長谷川はバックミラー越しに軽く頭を下げる。


安全確認後、走り出す車。






「ねえ、翔平ちゃ」


「誰ですか、あの男」






私が呼ぶ声を遮って聞いてくる。


かと思えば、わたしを押し倒す。


車の中の密室。


目の前には翔平ちゃんの顔。


ずっと見たかった顔なのに。


逸らしてしまう。






「こっち見てください」


「見れない!」


「見て、ずっと逢いたかったのに」


「…っ」






ずるい…。


ほんとずるい。


そんな顔で、そんな事言われたら見ないなんてできないじゃん。


わたしだって逢いたかったのに。






「あいつ誰?」


「…関口、朝陽くん…今日うちのクラスに転校してきて…」


「今日、転校してきた子に、もう名前呼ばせてるの?」


「呼ばせたわけじゃ…!」


「でも呼んでた」