出来る限り音をたてないように、そーっと篠田くんに近付く。



ふわふわと風が髪を揺らしても、篠田くんが起きる気配はない。



私が3メートル以内の範囲に入っても、全く目を開けることもなく…。



蜂谷くんの説明書は嘘、という証明をしてしまったようだ。



蜂谷くんには、検証は失敗したと報告しよう。



寝ていたから運が良かっただけかもしれないしね。



とりあえず、起きてしまう前に篠田くんから離れよう。そう思った時。



篠田くんの唇の端が切れてて、血が出ていることに気付いてしまった。



……さすがに、触ったら起きちゃうかな…。



でも、怪我してるのに放っておけない。



ポケットに入っていた絆創膏を、刺激しないように、軽く貼り付けた。



おかげで、今にもペロッて剥がれちゃいそうだけど…。



ボコられるのは怖いので、ごめんなさいぃ…。



両手を合わせて、寝たままの篠田くんに頭を下げ、静かに視聴覚室を出た。