「てゆーかさぁ、二人して空手やってんでしょ? 試合とかできたりするの? バトってるとこ見てみたい気ぃするー」

 そして、俺らを交互に見て別の事に食い付いてきた香苗ちゃんに、柚葉は「あー、うん」と曖昧に呻く。


「やってるっていうか……今空手やってるのはあたしだけ。こいつはとっくに辞めちゃってるから」


 ──確かに、俺と柚葉は小・中学と同じ道場に通っていた元空手仲間だ。

 俺の方は中学二年の頃に辞めちゃったけど、柚葉は高校二年になった今でもまだ続けている。

 一見小柄で華奢なくせして、黒帯二段という強者なのだ。

 そんな、かわいい顔した格闘天使ちゃんの柚葉は、ヘラヘラ笑う俺を見てフンと鼻を鳴らす。


「……まぁ、一緒に通ってた頃は組み手もやってたけど。でももう、こいつと試合しても話になんないから」

「えー、わかんないじゃんそんなのー。俺一応茶帯っスよ? それも段位手前の」

 口を尖らせてブーブー文句を垂れると、柚葉は喧嘩腰で言い返してくる。

「はあ? 笑わせないでよ。急に何も言わずに空手辞めたかと思ったらさ、女の子にモテたいからってギターに目覚めちゃうような、そんな軟弱な奴にあたしが負けるわけないから!」

「ははは」

「笑い事じゃないし! もう少し続けてれば段位だって取れてたかもしれないのに、ホント勿体ない!」

 ……ご指摘ごもっとも。

 段位だって取れてたかもって話は別にして──柚葉の言うように、俺は5年以上続けてきた空手をすっぱり辞めてギターを始め、今は音楽活動に専念を──

 あ、てゆーか、軽音部に所属してるってだけなんだけど。

 おかげで文化祭のステージは盛り上げられるわ、特に女の子にモテ──…

 いや、言うほどモテてるわけじゃないけど、有意義な高校生活を送れてるのは確かで──。

 だけど、柚葉はそれが気に食わないらしい。

 最初は「寂しいとか思ってくれてんのかな?」なんて淡い期待も抱いたものの、彼女に限って決してそんな事はなく……。

 ただ単に、自分の精神の礎となっている空手というものを“チャラついた動機”で捨て去った俺が、許せないんだと思う。