高校で再会したばかりの頃は、幻滅したようにため息をつき、知らないと言わんばかりに立ち去った。

 それが今では、歩み寄りを図るかのように様子をうかがってくれている。


 ……少しは、俺も進歩したかな。


「……へへっ」

 それだけでも十分嬉しくて、つい笑みが零れる。


「な、何がおかしいの」

 少しむくれる柚葉にもう一度笑って、俺は立ち上がった。


「いんや~、俺のこと気に掛けてくれるのが嬉しいな~と思って」

「な、」


 やたらとニヤつく俺にムカついたのか、柚葉は顔を赤くして立ち上がる。


「なによっ! 幼なじみなんだから当たり前でしょ!? あ、あたしだってちゃんと血の通った人間なんだから!」

「はいはい~、ゆずたんが格闘ゴリラちゃんだとは微塵も思ってません~」

「……上段回し蹴りで畳んだろか」

「はひっ!」


 悲鳴をあげてバッグを盾にすると、柚葉は呆れたように盛大にため息をついた。


 いつもの柚葉に戻ってくれて、安心する。


 ──だけど……。

 柚葉は、俺と別れてから泣くかもしれない。

 野波センセーとの事を思い出して、夜に泣くかもしれない。


 そう思うと、しくんと胸が痛んだ。


 灸を据える──うん、俺が勝手にやった事なんだけど。


 これが正しかったのか正しくなかったのか、結局は分からなかった。