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『ねぇ、あんたもしかして、矢井戸桂太だよね?』


 あの時、まるで風紀担当の生活指導員が注意するかのように、俺に声を掛けてきた柚葉は──。

『ねぇ、あんた何で急に空手辞めちゃったの?』

 そう責め咎めるように、俺を問い詰めてきた。


 俺はその時、空手を辞めてから伸ばし始めた髪、前髪を留めたピン、高校入学と同時に空けたピアス──そして、事もあろうか高校デビューに浮かれた勢いで声を掛けた女の子と一緒で──。

 驚きのあまり答えあぐねていた上、明らかにチャラついた佇まいの俺に、柚葉は幻滅したようにため息をついて「もういい」と言って立ち去り、以来、柚葉の方から俺に話し掛けてくる事はなかった。


 タイミングの悪すぎる再会に戸惑いもしたし気まずくもあったけど、運命的すぎる再会──まさか柚葉が同じ高校を受験しているなんて思わなかったから──に、胸が踊ったのは確かだった。


 柚葉にしてみれば、空手をやっていた頃と比べて俺は“変わり果てて”しまったのかもしれない。──とはいえ、空手時代の俺もふにゃふにゃと柚葉に接していた節はあったから、根本的には変わってないと思うけど。


 いずれにしろ、今の俺も紛れもなく俺。空手を辞めてギターを始めた俺も、俺である事には変わりない。

 だから、腹をくくって今の俺として柚葉にアプローチするしかない。


 実際、めげずに柚葉に声を掛け続けちょっかいを出していく事で、空手を習っていた頃の関係性を取り戻す事は出来た。


 ──彗星の如く現れた野波先生に全てをかっさらわれたのは、2年で同じクラスになり、心の中でガッツポーズをとっていた矢先だったんだけど……。