「だから、何よ……。改めて言われなくても、分かってるし……」

 絞りだすように、柚葉は吐き捨てる。


「……だから何? 好きになった人が、たまたま結婚してたってだけじゃない。恋をして何が悪いの」


「…──…。ふーん……」


 何の悪びれもなく言っている台詞のように聞こえるが、無理しているのは明白。


 ──ホント、バカみたい。

 頑張って古文の成績上げたりノートきれいにとったり、空手やってること必死に隠したりして──そんな風に取り繕ったところで、振り向いてはもらえないのにね。


 仮に振り向いてくれたとして──……どうすんだよ。

 その先、どうするつもりなんだよ。

 俺は頭を掻いた後、わざとバカにするようにため息をついた。


「何よ、あんたには関係ないじゃない! 半径5メートルは近づかないでって言ったでしょ? もうほっといて──」

「──そういえばさぁ」

 ため息が勘に触ったのか、一方的にまくし立ててくる柚葉の言葉を、俺はさらに意地悪く笑って遮る。


「お前、勉強にかこつけてよく国語準備室? センセーと二人きりになれる所に行ってるよねぇ? 中で一体何してんのかなぁ?──」

「───っ!」


 柚葉の顔が、カッと朱に染まるのがわかった。

 殴られる──と思うのと同時に、俺は片手で受けの構えを取る。

 そして、思った以上に鋭く飛んできた柚葉の拳──その奥の手首を、パシッと掴んだ。