その笑顔は、いつもみんなの輪の中心で笑っている晴日くんと同じ。


いたずらっ子のような、無邪気な笑顔。


思わず私も、自然と笑顔になっていた。


「…ふふっ」


「……心粋さんってそんな顔すんだ」

「知らんかったわ、俺」


まじまじと見つめられて、思わず一歩後ろに下がってしまう。


…し、心臓が…ドキドキしすぎて倒れそう…


「あっ…じゃ、俺忘れもんとってくっから」


思い出したように、晴日くんは慌てた様子で階段をのぼっていく。


その背中を見ても、やっぱりこれは現実なのかな、なんて疑ってしまう。


やっと深呼吸をしようと息を吸ったとき、晴日くんがこっちを振り返ったから、思わず息を止めてしまった。


「あ…と…、おくろっか?」

「ちょっとだけ待っててくれたらだけど…家どっち?」


おくる…?

家どっち……?



「心粋さんひとりで帰るんだったら、こんな夜道あぶないし」


「やっ…い、いいっ…大丈夫、大丈夫です」


そんなことされてしまったら…今度こそほんとうに私の心臓がもたない…



「…そ?んなら、」


「また明日」



そんな言葉を残して、晴日くんは階段をのぼっていってしまった。


今の…って、わたしに言ったよね…?


それは晴日くんが毎日、友達に言っている言葉で、私なんか一生かかったってそんなこと言い合える関係にはなれないって思ってた。


私なんかが…


もう誰もいなくなった階段に、
そっと囁いてみる。



「…また…あした」



頬に、温かい涙が流れていった。