そんな時、たまたま耳に入ったのが空き家の奥から聞こえてきた、小さな水しぶきの音。


恐る恐る覗けば、そこには可愛らしい金魚さんが一匹。



どうして一人でここにいるのかは分からない。


私もずっとひとりぼっちだけど、歩けば景色は変わるし、行こうと思えばどこにでも行ける。


でもこの金魚さんは、どこへだって行けない。


人工池の中で、小さな世界で生きている。


なのにこんなに一生懸命、

生きようとしている。



「…ずっと一人でここにいて寂しくないの?」



一生懸命にご飯を食べる金魚さんを微笑ましく眺めながら、ポツリと呟いた。


_ぴちゃぴちゃっ


答えるように一生懸命ご飯を食べる金魚さんを見ていたら、自然と笑顔になる。



「…あなたは、強いね」



必死に生きようとしている金魚さんを見ていると、すごく勇気をもらえる。



…私も頑張ろうって思えるんだ



「またね」


しばらく話しかけた後、立ち上がってまた帰り道を歩き始めた。



今日も可愛かった。



私は小さい生き物がわりと好き。


大きい生き物も好きだけど、

…少し怖い


でも人間よりは好きだ。



人は裏切るし、命を大切にしない人もいる。



食べることにも一生懸命で、
裏切ったりしない、


人間以外の生き物が好き。


自分も人…なんだけどな…



「………」


オレンジ色に染まる空を見上げた。


肌寒い風が吹く、11月の始め。

今日も一人で帰り道を歩く。


かじかんだ指先を震わせながら。