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夕焼けの空の下、
私はのんびりと足を進めていた。
だんだん学校から遠ざかっていく感覚に、どこかホッとしながら。
……今日もなんとか1日が終わった
放課後はいつも図書室に行くけれど、私の楽しみは図書室に行く以外に、もう一つだけある。
…今日も元気かなぁ
誰も住んでいないボロボロの空き家に足を踏み入れて、雑草がたくさん生えている場所に、静かにしゃがんだ。
つぶらな瞳と目線を合わせると、慌ててこっちに近づいてきてくれる。
よかった。今日もいた。
「金魚さん、元気?」
私が楽しみにしているもう一つのこと。
それは朝と夕方の2回、金魚さんに会いに行くこと。
赤くて綺麗な体に、大きく開けているつもりであろう、小さな口。
ぱくぱく、と口を動かすたびに、小さな水の泡ができている。
今日も金魚さんは、小さな池の中をのんびりと泳いでいる。
今日も可愛いぃ…
口をパクパクと動かす金魚さんは、なにか言葉を話しているように見える。
なんて言ってるのかは分からないけど、私は今日も金魚さんに話しかける。
「今日も学校が無事に終わりましたっ」
小さな声でそう言った。
すると金魚さんはこっちに近づいて来て、少しだけ、ひょこっと顔を出した。
「……かぁいぃ……」
カバンから用意していた金魚のご飯を取り出すと、少しだけパラパラと水面に浮かばせる。
_ぴちゃぴちゃっ
「おぉ」
ご飯に気づいた金魚さんは、ぴちゃぴちゃと大きな音をたててご飯を食べ始めた。
「ふふ、おいしい?」
この金魚さんは、なぜかここで独り暮らしをしている。
それに気がついたのは、私が高校一年生の、まだ入学したての頃。
入学当時の私は、友達もできない自分に少し落ち込んでいた。