ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「すばらしいですわ。まいらさま。イザヤさまとご一緒に過ごされて、お楽しいとおっしゃれるなんて。お顔を拝見するだけでも、私には気が重いのに。……どうか、ずっとイザヤさまのおそばにいらしてくださいね。」

シーシアはそう言って、また、私の手を両手で包み込んだ。

嫌味でも、イケズでもなく、自分の結婚相手の側室に何てことを頼むのだろう。

てか、イザヤの嫌われっぷりって、半端ないな。

そこまで嫌か?



「お嫌いなら、婚約を解消されてはいかがですか?無理に結婚しても、お互いに不幸じゃないですか。」

ついそう言ってしまった。



シーシアは不思議そうに私を見た。

「どうしてそんなこと仰るの?神様がお定めされた婚姻ですのよ。解消なんて、できるわけありませんのに。」


いや、その大前提がそもそもおかしいんだよ。

神がどうやって決めたってゆーの。


イラッとし始めた私の肩に、そっとティガの手が置かれた。

私はティガの顔を見上げて、ため息をついた。

ティガは微笑みをキープしていたけど、銀の瞳は全然笑ってなかった。


はいはいはい。


私もまた、心の籠もらない笑顔をティガに返した。


……こういうところが、好戦的と言われるのかもしれない、と思いながら。



***


ドラコとシーシアは、紅茶を2杯飲んで出立した。


2人を見送ったら、何だかどっと疲れて脱力した。


「お疲れさまでした。まいら。」

惜別の涙を隠そうとリタが玄関から走り去るのを待って、ティガが一応私をねぎらった。


「ほんまに疲れたわ。……シーシアが邪気のない、身も心も綺麗な女性だってことはよくわかったわ。でも、絶対無理。イザヤと合うわけないやん。……マジで、結婚せなあかんの?破談にならんの?」


ティガにそう迫ると、ティガは長いまつげを伏せた。

「婚礼は神がお定めになられたことですから。少なくとも、挙式と披露パーティー、初夜の儀式までは確実に成立させねばなりません。……後は、まいらにお任せいたします。」


ティガの言葉はいつも難解だけど、またしてもよくわからない。


「どういう意味で言ってるの?」

「……イザヤどのとシーシアさまは、十中八九、仮面夫婦となられるでしょう。もし、初夜の儀式でうまくシーシアさまがイザヤどのの(たね)をみごもられましたら、シーシアさまは我が子に生きがいを見いだされるでしょう。ですが、おそらくそうはならないでしょう。」