ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「まいらさま。お気をお落としになりませぬよう。おそらく私には何の力にもなれませぬが、イザヤさまにお願いのお手紙をお送りしますわ。これ以上まいらさまを虐められては、神様がイザヤさまに罰をお与えになります、と。」

シーシアは、震える声でそう言ってから、またぽろぽろと涙をこぼした。

まるでシーシアの独壇場だ。


ポカーンとしてしまったけど、私は何度か腹式呼吸をして心を落ち着かせた。

「あの、誤解です。私、イザヤに虐められてません。確かに音楽の趣味につきあうのは大変だけど、むしろ優しくしてもらってると思います。」


そう言ったら、背後から小さな舌打ちが聞こえた。


誰!?

振り返ろうかとも思ったけれど、やめた。


3人とも、ううん、シーシアも含めて4人とも、イザヤと私が仲良しなことなんか喜ばないよね。


しっかりしなきゃ。

4人とも現段階では敵じゃないけど、いつでも敵になり得るヒト達なんだから。


お父さんや、死んだおじいちゃん、それに孝義くんも言ってたっけ。

ヒトを敵か味方かで判断すると危ないって。

誰もが味方にも敵にもなり得るものだから、と。




「もしかして、イザヤが怖いのですか?」

失礼かもしれないけど、シーシアにそう聞いてみた。


シーシアは私の手を握ったまま、こっくりとうなずいた。

「……イザヤさまは、私を、まるで感情のない物のように思ってらっしゃるのです。」

涙に濡れたすみれ色の瞳が、悲しみを訴えかける。



確かに、人形のようだとは言ってたけど……



「どれだけ王様にお願いしても、これ以上の神様にお仕えする任期は延長できませんでした。次の冬には、私はこの館に来なくてはなりません。異教徒のイザヤさまのもとへ。」


シーシアの言葉に私はどんな顔をすればいいのかわからなかった。


イザヤもシーシアとの婚礼を待ちかねてる様子はないけどさ、シーシアに至っては、婚礼から逃げてたのか。

もう、不幸すぎだわ……この結婚。

本気でやめちゃえばいいのに。





「大丈夫ですよ。この館の使用人はみな穏やかで親切ですし、リタもずっとシーシアさまのおそばにいます。まいらは、イザヤどのの寵愛をかさに、シーシアさまを虐めるような子ではありません。むしろ、イザヤどのからシーシアさまを守ってくれることでしょう。」

ティガの言葉に、私は開いた口がふさがらなかった。


シーシアを私が虐める?

そんなわけないじゃないか。

てか、立場、逆じゃないの?

意味わかんない!

いや、でもさ。

正直なところ、私がシーシアを守る、って意味もよくわかんないのよ。

何、言ってんの?

イザヤ、いったい、シーシアに何をしてきたの?