ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

夏なのに、雪が降ってきた。

これが、神の花嫁なのか。


私はとりあえず、日本人らしく、深くお辞儀をした。

そして、丁重に挨拶しようとしたら、先にシーシアが口を開いた。

「どうか、頭をお上げください。まいらさま。はじめてお目に掛かります。シーシアと申します。突然押しかけてしまって、申し訳ありません。」

か細い震えるような高い声で、シーシアはそう言って、私の前で跪いて祈った。


まるで神に祈りを捧げるような恭しい態度に、私だけでなく周囲も驚いたようだ。


「シーシアさま!おやめください!」

悲鳴のような声でリタが止めた。


でもシーシアの周囲には、空気の膜があるのだろうか。

どこまでもゆったりとシーシアは言った。

「リタ。どうしたの?その髪。」


……どうやらリタのジャキジャキな短髪をシーシアは見たことがなかったらしい。


リタは、自分の髪に触れてあわあわしていた。


「まいら。イザヤどのの代わりに、ご挨拶を。」

ティガが小声で私にそう促した。


そうだった。

すっかり雰囲気にのまれそうになっていた私は、息を吸って、一歩前に踏み出した。


「ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。はじめまして。竹原(まいら)と申します。館の(あるじ)は留守ですが、ゆっくりしてらしてください。」


そう言ったら、ヘルムを脱いだドラコがちょっと顔を歪めた。

「イザヤがいないから来たのだ。」

赤い髪をく片手でくしゃっとして、ばつの悪そうな顔でそっぽを向くドラコ。


どういう意味だろう。

ドラコは、イザヤとシーシアを逢わせたくなかった?

あるいは、シーシアがイザヤと逢いたくなかった?


……どっちにしても、波乱含みだわ。



***


応接室に案内し、紅茶の給仕が終わってから、ドラコがリタに言った。

「久しぶりだな。息災か?……その髪はどうした?」



リタは目を伏せて、ただ小声で

「はい。」

としか言えないようだった。



「リタ。本当に、どうしたの?」

……シーシアが話す声は……まるで鞄の中で鈴が鳴ってるようだわ。

綺麗だけど、イザヤとは合わないのかもしれないなあと、漠然と感じた。



返事できないリタの代わりにティガが言った。

「リタが仲良くなった異世界人の髪型を真似たのですよ。個性的ですが、元気があって、私はリタにはよく似合っていると思っています。」