ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「明け方に、イザヤどのの笛も聞こえてきた気もします。ずっと演奏されてたのですか?」

ティガの言葉に、私は顔を上げて、うなずいた。


イザヤは、遠足前夜の子供のようにノリノリで音楽と戯れていた。

さすがに私は途中で何度も眠りそうになったけど、その都度、イザヤが心を込めて歌を熱唱してくれちゃうから、結局一睡もできなかった。

それどころか、まるで洗脳のように恋愛状態に引っ張りこまれてしまった気分だ。



「……リコーダーとクラヴィシンと、歌の宿題もたっぷり出されたからお稽古しなきゃ。」


そうぼやくと、ティガが眉をひそめた。


「イザヤどのは、まいらを楽士に育てたいのでしょうか。」

「いや、それは無理。私、才能ないもん。むしろ、剣術のほうが上達早いし。……女は、騎士にはなれないの?」


真面目にそう聞いたんだけど、リタにゲラゲラ笑われてしまった。

「まいらって、ほんと、変!」

「……いや、男女共同参画って言ってね、私のいた国では、どんな職業でも立場でも、男女の別なくなれるの。」


そう言ったら、ふんふんとうなずいて聞いていたティガがすごいことを言った。

「実に興味深いですね、まいら。……しかし、もうすぐ騎士という職種はなくなると思いますよ。」


「それって……」

秀吉の刀狩りとか、明治政府の廃刀令みたいなもの?

カピトーリが全土を制覇したら、抵抗勢力を作らないように軍事力を削ぐのかな。


……歴史の時間に勉強した時は、それがさも平和な時代の到来のようなイメージだった。

でも、単に征服者の権力維持のための手段でしかないんだ。


何だか、背筋が震えた。


***


イザヤのいない日々は、彩りがなくて淋しかった。

執事さん以下、みなさんが私を恭しく扱ってくれても、ティガだけでなくリタも私と過ごす時間を増やしてくれても、やっぱり心の中にぽっかりと穴が空いていた。


「いざやも淋しい?」

鳥の伊邪耶は、かわいがってくれるイザヤがいないせいか、四六時中、私の後を追いかけてきた。


かわいいけれど、切なかった。



***


10日でほどで帰る、と言ってたのに、案の定イザヤは帰って来なかった。


「お待ちかねの書状ですよ。」

かわりに、イザヤからの手紙が届いた。