ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

私は意を決して、口を開いた。

今日の年号と日付、竹生島に上陸したおおよその時間……もちろん、現在の総理大臣も。


ティガは、うなずきながら記録をとっているように見えた。


……さすがに、記された文字はよくわからないや。



「ニッポンから来た異世界人は、記録上そう多くありません。ですが、みな真面目で手先が器用な働き者だったと記憶しています。」


パラパラとノートというよりは、分厚い本をめくりながら、ティガは言った。



「まいらと同じ時期の者は残念ながらいないようですね。一番近い者で……ショウワテンノウの時代の兵士かな。」



するとイザヤがうなずいて言った。


「あぁ。覚えている。ガリガリに痩せてて、喰っても美味くなさそうだから、本人の希望通り土地を与えたらコメという穀物を育てて普及させてくれたんだったな。一昨年、亡くなったそうだ。」



イザヤの言葉がじわじわくる。



何て言った?

食べる?


このヒト、人間を食べるの?




恐怖に目を見開いて押し黙ってる私に気づいたティガが、私の肩に手を置いた。



「大丈夫です。まいら。」


その手が温かくて……ティガの声もすごく温かくて……守ってもらえるのだとホッとした。




でも、イザヤは容赦なく言い放った。


「何だ。喰われると思ったのか。安心しろ。女は、美しければそれだけで価値がある。たとえ不細工でも夜伽(よとぎ)の相手ぐらいにはなる。子を産めば人口も増える。……このオーゼラでは、女は5人の男子を産めば恩給を与えられるぞ。」



耳を塞ぎたくなった。


勝手に、唇が、ぶるぶると震えた。



……ひどい。

女には人権がない世界なの?


お飾り人形?

性奴隷?

子供を産む道具?




「イザヤどの。フォローになってません。まいらがますます怯えてしまいましたよ。」

ティガが、やんわりとイザヤを責めた。


イザヤは、ふんっと鼻で笑った。

「怯える?……どこが?」


そうして、イザヤは私の顎をグイッと上げさせた。


目の前に迫ってくる、イザヤの綺麗な青い瞳。


秋の空のように澄んだ明るい青。


この瞳に映る私は……なるほど、確かに、怯えてはいないかもしれない。