ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「そっか。いざや、賢いからねえ。イザヤが不機嫌そうやし怖かったんちゃう?いざや。おいで。」

そう言って、両手を差し出すと、イザヤは鳥の伊邪耶を私の手にのっけてくれた。


「マイラ。マイラ。マイラ。」

目を細めて甘えるようにそう繰り返す伊邪耶がかわいくてかわいくてしょうがない。


うっとりしてる私に、イザヤは硬質な声で言った。

「10日ほど留守にする。こやつを連れて行きたいが、万が一のことがないという保証もない。まいら。すまないが、こやつとともにこの館で待っていてくれないか。」


……何でイザヤはそんなことを私に頼むのだろう。

伊邪耶は私の鳥だし、私もここしか行くとこなんかないのに。


いったい、イザヤはどこへ行くの?


私はとりあえずうなずいてから、口を開いた。

「明日から行くの?どこに行くの?……危険なところじゃないよね?」


イザヤの表情が少し歪んだ。

「……私は王の騎士だ。」


それだけしか言ってくれないイザヤをじっと見つめた。


行き先は、言えないってこと?

でも戦場じゃないよね?

10日ほど、って言ったもん。



イザヤはふっと表情を緩めた。

「明朝は出立が早い。そなたは起きなくていい。その代わり、今宵は少し付き合ってくれまいか?」


ドキドキする。

……そういう意味じゃないと思うんだけど……表情がやらしくないし。


よくわからないまま、私はうなずいた。


イザヤはうれしそうにほほえんだ。




館内がバタバタしている。

イザヤの出発に向けて、急遽荷造りしているのだろう。


夕食もいつもより少し遅れた。

私は、イザヤの作ってくれたピンクのドレスを身につけた。

晩餐会ではないけれど、イザヤもいつもより華やかな格好をしていた。

袖や襟にレースのフリルがごっちゃりついた昔の少女マンガの美少年のような格好がやたら似合っていた。

イザヤの明るい金褐色の長い髪にはリボンも似合いそう。


「髪を結い上げてもよかろう。土産に何か見つくろってくる。そなたの黒い髪には真珠が映えそうだな。」

イザヤもまた、私の髪を見ていたらしくそう言ってくれた。


「真珠の産地にでも行くの?」

何となくそう聞くと、イザヤは口をつぐんだ。


……当たらずとも遠からず?

海辺なのかしら。

真珠、か。


「私のお母さんも真珠が好きで、普段からよくネックレスをつけてたわ。」