ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「じゃあ、シーシアとイザヤの披露宴のメインディッシュは私のお肉のお料理かもね。」

そんな風に(うそぶ)いたら、逆に心がすーっと落ち着いた。



ティガは眉をひそめて、じっと私を見た。


私は苦笑して見せた。

「ティガ。ありがとう。おかげで覚悟が決まった。」

「覚悟……ですか?」

「うん。覚悟。私ね、この世界で生きてく覚悟はとっくにしてたし、今のこの状況に対応しようと前向きに頑張ってるつもりだったんだけどね、考えてみれば、この世界で死ぬ覚悟はなかったわ。……戻れる保証がない限り、いずれはこの国で死ぬって、ちゃんと覚悟しないとね。」

「まいら!」

ティガが私の両肩を掴んだ。


私はぷるぷると首を横に振った。

「別に自暴自棄になってないよ?単に、腹を据えただけ。元の世界に帰るために何があっても生き抜こうと思ってたけど、帰るのは目標じゃなくて、……結果かな、って。とにかくこの世界で幸せになることを目標にがんばるの。イザヤに頼りっぱなしじゃなくて、自分の足で立つために。」


そう言ったら、ティガは少し首を傾げた。

「本心ですか?」

「うん。」

「そうですか。では、」


ティガは少しの間をあけてから、言った。


「カピトーリに来ますか?」


へ?


「何で?カピトーリのほうが、就職先があるから?」

突然の転居の勧めに私は面食らった。



ティガは片頬だけ上げて微笑んだ。

「まあ、仕事もありましょうが、それは追々考えるとして、とりあえずは私の屋敷に来ませんか?」

「ティガのお屋敷?」

「ええ。まいらの好きそうな書物もそろってます。思う存分勉強していただいてけっこうですよ。」


ティガはそう言ってくれたけど、私には全く現実的な選択肢にはなりそうもなかった。

だって、ティガのお屋敷には……イザヤはいないもん。

……まあ、イザヤよりはティガに身を寄せたほうが、たぶん今後は安全になるんだろうけど。



私は、首を横に振って、小さくありがとうとつぶやいた。


***


その日の夕方、不機嫌そうな顔でイザヤが帰館した。


「イザヤ。オチタ。イザヤ。マイラ。オチタ。」

イザヤの胸から飛び出して、床にべちゃっと落ちた鳥の伊邪耶を、イザヤは慌てて拾い上げた。


「馬鹿。おとなしくしてろ。危ないだろ。……まいら。こやつ、今日はやたらうるさくて、逃げ出そうとしてたぞ。」