ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「竹原(まいら)です。16歳です。この春から高校生になりました。京都の嵐山に住んでます。今日は、お父さんとお母さんと、琵琶湖にクルージングに来ました。」


条件反射のように、そう名乗った。



すると、それまで冷たかったイザヤの瞳が熱を帯びて輝いた。


「キョオト。ビワコ。……なるほど。異世界から来たか。ティガ!異世界人の少女だ!ニッポンだ!」




ティガ?


意味がわからず、ぽかーんとしてると、いつの間に現れたのだろう……背の高いヒトが、壁際に立っていた。


ティガって、このヒトの名前なのかしら。


まるで昆布、いや、お湯に入れたワカメかな?

深い緑の長い髪は、艶やかでぺったりさらさらしてて、何だかお人形の髪のように波打っていた。

青みを帯びた白い顔。

あ。

瞳が鈍く輝いてる。

銀色?


ますます生きてる感じがしない。

ロボットかアンドロイドのような瞳。

すっと通った細い鼻梁も、切れ長の瞳も、薄く赤い唇もすごく綺麗。


なのに、意外と人懐っこい笑顔と柔らかい美声で彼は言った。



「ニッポンですね。……それでは、まいらのいたクニで一番偉いのは誰ですか?ミカド?ショウグン?ソウリダイジン?」




……おそらく、私は異世界にトリップしたのだと思う。


なのに、まさか、事情聴取で総理大臣を聞かれるとは。



「私以外にも、いるんですね?日本からこの世界に来てるヒト。」


もしかして、お父さんとお母さんも?



「そなたは、聞かれたことにだけ答えればよい。」

そうイザヤが言った。


冷たい青い瞳は、ただ私を観察していた。



「イザヤどの。敵国の兵士の尋問じゃないんですから。女の子にはもっと優しく。まいら?数はそう多くありませんが、有史以来、異世界から迷い込んだ人々は幾人もいます。まいらだけではありません。男も女もオトナも子供もいました。だから、まいらがこの世界にとって、いえ、イザヤどのや私にとって有益でしたら、丁重に扱うことをお約束いたします。まいらの知っていること、できることを、包み隠さずお話しなさい。情報が多ければ多いほど、まいらの身の安全が保証されると覚えておきなさい。」


言葉は命令形だけど、このワカメ頭のティガは、親切そうだし優しそうな雰囲気だった。


信じられる……?


少なくとも、今も頭のてっぺんからつま先までねめつけるように、ねっとりと観察しているイザヤよりは優しいヒトに思えた。