そんな夢みたいなシチュエーション、あるわけない。


そう思った矢先に、雷が鳴り響き、雨の音と雷がまるでドラムのように鳴り響いた。



「ほんまや。こりゃ、音楽やな。」

天を仰いだお父さんの顔を雨が強く打ち付けた。

***

船を下りて、桟橋をそろそろと歩く。


「滑らないように、そーっとね。」

お母さんが私の肩を抱いて、注意を促す。


手の中の伊邪耶が少しも濡れないように庇いながら、足元に視線を落として歩いた。



石の階段を上がって、島に上陸!


……ん?

なんか……甘ったるい香りがする?



目の前に、ひらりひらりと白い花びらが舞い散ってきた。

雨なのに、こんなに綺麗に風に舞うんだ……。


どこから飛んで来るんだろう。




ぐるりと、見上げた空が回転した。



……え?



私は立ち尽くしていた。

なのに、空だけじゃない。

ぐるりぐるりと周辺がゆっくりと回り出す。


まるで遊園地のコーヒーカップに乗ってるかのように……。


いや、遠心力がついてるのか、回転速度がどんどん上がって早くなる。



立ちくらみ?

メニエル病?


……助けて……。



お父さんの背中に、お母さんの横顔にそう訴える。



折しも、どこからか聞こえてきた、やたら金属的なキンキンと響く楽器が奏でるメロディーで、私の声はかき消された。



これ、何!?

お父さん!お母さん!



全身に嫌に力が入ってしまうけど、左手だけは合羽の胸元に入れて手の中の伊邪耶を守る。



ぐるぐる回る景色に、毒々しいほどに強い甘い香りに、どんどん気持ち悪くなって私は立っていることも、目を開けていることもできなくなってしまった。


……そして、私は気を失った。




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どれぐらい時間がたったのか。



目覚めた私が最初に見たものは、ぼんやりと白い天井。



そろりと首を動かす。


わ。

壁も白い。


何もない、白い部屋。

私が横たわっている台も白い。



……ここは、いったい……どこだろう。

病院……?


でも、電気もないし、この台もベッドじゃない。

部屋の四隅にランプのような灯りが灯っているだけだ。



あ!そうだ!


「いざや!どこ?いざや!」


手の中にいたはずの、伊邪耶がいない。