実際、私はこの世界では赤ちゃんと同じだ。

イザヤに見い出され、目覚めた時に初めて私が見たのもイザヤだった。

私、たぶんイザヤを庇護者だとインプリンティング(すりこみ)されちゃってるんだと思う。


……しかも、最初はただただ偉そうだったくせに……こんな風に優しくされたら……依存しちゃうよ……。



「……大丈夫だ。私が殺されても、そなたには害は及ばない。絶対に。」

イザヤはそう言って私を落ち着かせようとした。



「違うってば。……イザヤに生きててほしいって言うてるの。」


さすがに恥ずかしくて、私は慌ててイザヤから離れた。

けど、イザヤは逆に私の腕を捉えて、放さなかった。


「そうか……わかった。」


何をどうわかったのか、イザヤはそう言って一人で納得していた。



私は既に後悔しはじめていた。


イザヤ、たぶん、私がイザヤに惚れてるって勘違いしてないかな。

そうじゃないんだけどな。


私が好きなのは、自分に厳しい一途な孝義くん。


とうてい叶わない恋ってわかってるけど、だからと言って、いかにも自分にあまあまなイザヤは……違う。


ただ、イザヤの腕の中は居心地がいいし、こうして言い合ってるのは好き。


だから、ずっと庇護者でいてほしいんだけど……


***

湖岸には幾つもの松明(たいまつ)が燃えていた。


「……何かあったか?」

イザヤは低い声でつぶやいた。



「あ。ティガだ。やっぱり背が高ーい。」

遠目にも、ティガの銀の瞳が光って見えた。


「ティガ?珍しいな。……よほどのことが起こったか、それとも、そなたが気になるのか。」


イザヤはそう言って、意味ありげに私を見た。



イザヤがボートを桟橋につけると、わらわらと使用人さん達が近づいてきてロープで繋留した。



「イザヤどの。王城からの書状と、弟からの書状が届いております。」

ティガがそう言って、2通の封筒を差し出した。


「わかった。館で読む。……まいら。」

イザヤはそう言いながら桟橋に上がると、私に右手を差し出した。


「あ、はい。」

私は慌てて、鳥の伊邪耶をイザヤに差し出した。


「……そうだったな。」

イザヤは苦笑して、鳥の伊邪耶を受け取ると胸元にそっとおさめた。


……あれ?

もしかして、今のは……私を引っ張ってくれようとしてたのかな?