「でも、リタもティガも慕ってるみたいやし、外見だけじゃなく、お人柄もいいんでしょ。」


私がそう言うと、イザヤは苦笑した。


「あっち向いてろと父親に言われたら、3日でもそのまま動かないでいられる女だ。」

「ものすごく素直なお姫さま、ってこと?……すごい。じゃあ、イザヤはあんまりイケズゆーたらあかんね。優しくしたげんとすぐ泣かはるんちゃう?」

そう言ってる私が泣けてきた。



イザヤは私の心の動きに気づいたのだろうか。

次の瞬間、なぜか私はイザヤに両脇を取られて船底から引きはがされ、イザヤの座ってるすぐ前に座らされた。

つまり背後に、ぴったりとイザヤ。


「泣く女ならまだ可愛げもあるがな。……私は、私の言葉に一喜一憂して、泣いたり笑ったり怒ったりする女がいい。つまり、そなたといるほうが楽しい。」


そう言って、イザヤはオールを放り出して、私を背後から抱きしめた。


「ちっさいな……」

後頭部にイザヤの苦笑。



何を言われたか、理解するまで時間がかかった。

それぐらい自然に、イザヤは私のまだほとんどふくらんでいないなけなしの胸に手を置いていた。



涙目で振り向いたら、頬にイザヤの唇が当たった。

ただの事故だ。

意志をもって、キスされたわけじゃない。


それでも私の目から涙がホロホロこぼれた。



「……なぜ泣いてる?」

イザヤは私にそう聞いた。


なぜ?



「嫌がっては、いまい。恥じらっているのか?」

重ねてそう聞かれて、私はちょっと考えた。


胸を触られて、頬に唇が当たって……泣いたわけではないかもしれない。

だって、確かにびっくりしたけど、イザヤの言う通り、私、嫌がってないもん。


それよりも、こうして今ココにいるイザヤが……イザヤの妹みたいに、いつか誰かに無残に殺されてしまうかもしれない……それが怖くて……



「……やだ。」


やっと出た私の言葉に、イザヤは慌てて諸手(もろて)を上げた。


解放された私は、イザヤに自分からしがみついた。

「やだ。イザヤが殺されるの、やだ。見たくない。怖い。ほんとに?婚約者ってそんなに、立場が強いヒトなの?何があってもイザヤを守ってくれる?」


「まいら……そなた……」

イザヤは私の背中に手をあて、ぽんぽんと優しく叩いた。


まるで赤ちゃんにげっぷを促すように……