神殿を出ると、何となく薄暗かった。

大きいほうの太陽は既に沈み、小さい太陽もだいぶ傾いているようだ。


「暗くなる前に帰れないかも。」

空を見上げてそうつぶやくと、イザヤが私の手から鳥の伊邪耶をひょいとつまみ上げた。

「上ばかり見てると、階段をふみはずすぞ。」


イザヤは胸元に鳥の伊邪耶をそっと入れてから、私に手を差し伸べた。
 

「ほら。足元だけ見てろ。」

「……うん。」


そう言われて、石の階段だけを見ようと思うんだけど……どうしても、湖面のさざなみが気になる。


そのうちにガクガクと足が震えだした。


イザヤが振り返った。

「まいら?怖いのか。……持ってろ。」

そう言って、イザヤは胸元から鳥の伊邪耶を出すと、私の手に持たせた。


伊邪耶は半分眠っているらしく、ぼんやりと目をあけて小さく鳴いて、また目を閉じて丸くうずくまった。

かわいい……と、伊邪耶に見とれてる私を、イザヤは何も言わず突然抱き上げた。


びっくりしたけど、両手で伊邪耶を包んでたので暴れることもバランスを取ることもできなかった。


怖いっ!!!

でもイザヤの腕はしっかりと私をホールドしている。


すぐに恐怖心は消えた。


私はイザヤの胸と肩に身体をゆだねて、手の中の伊邪耶を見つめていた。


チラッとイザヤを見上げてみたけれど、白い綺麗なお顔が近すぎて……

何も言えないまま、私はうつむいた。



「緊張する必要はない。……一昨日もこうしてそなたを運んだ。」

イザヤはそう言って、笑った。


「こやつなんぞ、怖がってポケットから出てこようとしなかったが、今はもう安心しきってるようだな。」

「いざや?……ほんと、たったの2日でずいぶんと馴れたねえ。今はイザヤのこと、大好きみたい。」


ね?

と、伊邪耶に話しかけた。


くちゅくちゅと鳴いたあと、伊邪耶はもにょもにょと聞き取れない言葉を話していた。

寝ぼけてるのかな。 





「イザヤ、この島にはしょっちゅう来るの?」

ボートに乗り込んでからそう尋ねた。


「……休暇の日だけだ。」


もしかして、照れてる?



「そっかぁ。また、私もついてきていい?」

「……ああ。そのつもりだ。そのうち、元の世界に帰してやれるかもしれぬしな。」

「そうね。……次は、食べ物とか持ってきて、島でピクニックしよっか。ボートで食べても楽しいかも。」