疲れて上がらなくなっていた足が勝手にふわりと上がる。


「イザヤ。力持ち。」


感心してそう言ったら、イザヤは苦笑した。


「当たり前だ。これでも近衛騎士団長だ。そなた3人ぐらい担いでも平気だ。」

「……戦えなくても、力はあるんや。」


あ!しまった!

嫌味を言うつもりなんか全くなかったのに、ついそんな風に言ってしまった。

怒らせちゃう?



あわあわしてると、イザヤは苦笑してぽんぽんと私の頭を軽く叩いた。

「よい。そなたの小賢しい物言いにはもう馴れた。ココでは意地を張る必要も、強がる必要もない。……戦えないのは近衛騎士団で、私個人ではない。」


イザヤの言うことは、わかったようでよくわからなかった。


ココでは?

イザヤの館とは、条件が違うの?


どうして、わざわざ「ココでは」って言ったんだろう。



けっこうな高さまで階段を上がって、ようやく神殿にたどりついた。

白い柱が目立って見えたから、てっきりギリシャ神殿みたいな建物かと思ってたら、もっとシンプルで直線的だった。


大きな扉の鍵穴に、イザヤは鍵のようなモノをはめ込んだ。

イザヤが押すと、音もなく扉が開く。


中も、白い。


……あれ?

建物の中に墓石が林立してる? 

凝った石の細工と文字が彫り込まれた立体的なコレって、お墓よね?


え?

こっちは、棺桶に見える。

棺桶型の墓石?



「イザヤのご先祖さまのお墓なの?」


「ああ。ここは直系だけだがな。」

そう言ってイザヤは一番手前の墓石の前に片膝をついて、左胸に右手をあてがって俯いた。


……バレエダンサーみたい。

これがこの国の祈るポーズなのかな。

 
イザヤの綺麗な首筋を明るい艶やかな髪が滑り落ちて、胸元の伊邪耶にかかったらしい。



「イザヤ。オチタ。オチタ。」

言葉に続き、ちゅんちゅんくちゅくちゅと、伊邪耶が鳴く。


「いざや。しーっ。邪魔したらあかんよ。イザヤ、お祈りしてはるんやから。」


小声でそう止めたけど、イザヤは目を閉じたまま、クッと笑った。


「よい。」

そう言って、イザヤは墓石をまるでヒトのように紹介した。

「母だ。半年前に亡くなった。賑やかなことが好きなヒトだった。」


そしてイザヤは胸元から小鳥の伊邪耶をそっと出して、何と墓石の上に乗っけた。

伊邪耶は、私達より少し高いところにいることがうれしいらしく誇らしげにぴよぴよと鳴き続けた。