「反抗期なんでしょ。まいら。行きましょう。いざやの餌、持った?」

お母さんは鷹揚に受け流し、そう確認した。



「……持った。うん。持った。」


鞄に伊邪耶の餌、手の中に伊邪耶を包み込んで私はすっくと立ち上がった。



「行きましょう。」

私の背中にそっと手をあてがい、お母さんがほほえむ。


お父さんが当たり前のように、お母さんのバッグと日傘を持った。




ロビーに降りると、ホテルのかたが船着き場まで案内してくれた。


「こんにちは。よろしくお願いします。」


父がそうご挨拶すると、船を出してくださるおじさんが会釈した。


「天気、もつといいですねえ。」


さっきまで青い空だったのに、何となく雲が増えたような気がする。



母の言葉に、おじさんは首を横に振った。

「海津までは、もつと思いますわ。ほーかて、竹生島は雨のほうが竜神さんが歓迎してんなるから、だんない。かまへんかまへん。」



……京都の隣の滋賀県でも、湖北のほうまでくると、かなり言葉が違うことに驚いた。


まあ、意味はわかるから、かまへんかまへん!……やけど。


***


4月半ばの土曜日の午後。

私たちは、久しぶりに親子3人で琵琶湖クルージングにやってきた。



同居してる異母姉のさっちゃんこと桜子お姉さんが、臨月で実家の神戸に戻っているので、その旦那さんの薫くんも土日は神戸に行ってしまう。


おばあちゃんとおじいちゃんが亡くなってしまっても、2人がいたから楽しく生活できていたのに……やっぱり、お父さんとお母さんと3人だけじゃあ……ちと淋しい。

まあ、核家族は普通のことだし、今は母子家庭も父子家庭も全然珍しくない世の中なんだけど。

……やっぱり、家族が減ると、淋しいよね。


そのせいか、ずっとお仕事が大変そうなお父さんが、率先して、休日のお出かけを企画提案し続けている。


ちょうど桜の季節なので、京都はもちろん、奈良や神戸にもお花見に出掛けた。




そして、今週は滋賀だ。



桜の好きなお父さんは海津大崎の桜を湖上から眺めることを楽しみにしていたし、ちょっと歴女の気のあるお母さんは竹生島上陸に大興奮していた。



……私の楽しみは、夕食の鴨づくし。


昼食の近江牛ももちろん美味しかったけど、A5の霜降りロース私には脂がきつくて……今も、ちょっと気持ち悪い。

赤身がいいのになぁ。

***