ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

……とても逃亡者に見えないんだけど。

湯壺のお湯を捨てる前に、全身を洗い流して、新しい衣服に着替えたのかな。

さすが……。


こんなときなのに、笑えた。


「贅沢言わない!もう少し我慢して。……夜になったら、ボートで湖に出るから。」


そう言ったら、イザヤは嫌そうな顔をして見せて、それからおもむろに湯壺から出て来て、両手をそろりと私に差し出した。



迷わず、私はイザヤの胸に飛び込んだ。


……確かにしけっぽいけど……まあ、仕方ない。



「……会いたかった。」


去来するさまざまな疑問を飲み込んで、私はそれだけを伝えた。


何があったの?

みんな死んだの?

どうしてイザヤも、反乱に参加したの?



……聞きたいことは山ほどあった。


でも、今となっては、どれもすべて、どうでもいいことのような気がした。



少なくともイザヤは生きている。

生きてこうして館に戻って、私を抱きしめている。


それで、もう、いいや。



私を抱き寄せたイザヤの左腕に力がこもった。


「……私も……最後に一目そなたに逢いたかった。」


「最後にさせるつもりないし。一緒に行くし。ティガが、私たちを匿ってくれるって。」

私は、たたみかけるように言った。



でもイザヤの目は暗く澱んだまま。

「……すまない。そなたは、私のことなど忘れて、そなたらしく、強くたくましく、生きてほしい。鳥のいざやは、姉上に預けてある。落ち着いたら、迎えに行ってやってくれ。」



……本気で、生きる気力を失っているらしい。


私は、イザヤの目を間近から覗き込んで、強く言った。

「忘れるとか、絶対、無理やから。イザヤが死にたいなら、私も一緒に死んであげるけどさ。できたら、お腹の子のためにも、もう少し、がんばろ?強くたくましく、一緒に、生き抜こう?」


「……お腹の子……」

腑抜けたまま、イザヤはつぶやいた。


「あ、やっぱりまだ聞いてへんかった?ティガに書状送ってもろてんけど。」


結局、自分で伝えることになってしまった。

恥ずかしいけれど、開き直ることにした。



「もちろんイザヤの子供。うれしい?うれしいよね?うれしいでしょ?」

……まるで強要してるみたい。



多少うしろめたかったけれど、私は手応えのないイザヤを揺さぶった。