ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「それ、記録で見たことがあります。流行歌だそうですね。……たしか……ラズリートのツィドシニサ、カラロヴィのドバリツ……」


ティガの言葉が耳に馴染まない。


「なんて?」

思わず聞き直した。



ティガは、首を傾げて、心持ちゆっくり言い直してくれた。

「瑠璃の花園、珊瑚の宮。」


あ、今度はわかった。


「そう、それ。私にとっては古い唱歌やけど。……この世界に来る直前に乗ってた船で聞いててん。」


そう説明したら、ティガは納得したように頷いてから、表情を改めた。

「……わかりました。しかし、まいら。湖に身を投げるのは、やめてくださいよ?」


釘を刺されてしまった。


私は、苦笑して頷いた。



***


それからは、不安になるたびに、正座して合掌念仏を繰り返した。

心を落ち着かせ、あたためて、私たちはカピトーリからの知らせを待ち続けた。


***


前触れは、何もなかった。

それは、突然やってきた。


地鳴りのような音。


「何?地震?噴火?」


昼食中に、びっくりして立ち上がった。



「騎馬団ですね。……大丈夫。この館が攻め込まれることはありませんから。落ち着いてください。」


ティガはそうなだめてくれたけど……自分はそうそうに食事を切り上げて、様子を見るため、上の階へと向かった。



リタも、ドラコが来るかもしれないと、そわそわしていた。




音が地響きを伴い、近づいて来た。


「この舘に寄るようですね。……イザヤどのを探している部隊かもしれません。」


そう言いながら、ティガが戻ってきた。



ドキンとした。



イザヤ……。

落ち武者狩りじゃあるまいに……。




胸が痛くなり、私は口の中で念仏を唱えた。




程なく、たくさんの馬の蹄鉄の音やいななきが聞こえてきた。

玄関の呼び出しベルが鳴る。


執事さんがドアを開け応対している。



ガチャガチャと音を鳴らして入って来たのは、ドラコ。

久しぶりに見た黄金色の甲冑は、ところどころ返り血で黒ずんでいた。




「……任務中なので、用件のみで失礼する。……イザヤを追っている。残念だが討伐令が出ている。」


硬い声が、事の重大さを伝えていた。



ティガが静かに答えた。

「こちらには、来られておりません。」



頷いたドラコの顔はヘルムで目しか見えない。




「これ以上の取りなしも、見逃がすことも、もはや、かないませんか。」

ティガにそう尋ねられて、ドラコはうつむいた。