ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

イザヤがミシルトと結婚したことを、ティガの責任だとは思わない。


「……イザヤのことは……もう、いいから。」

ついつい、冷ややかな声になってしまった。


熱が冷めたわけではないけれど、今は本当に思い出したくも、考えたくもなかった。




ティガは、じっと私を見つめて……それから、心を込めて言った。

「あなたのことをすべて理解しているわけではありませんが、私がついてますよ。」



ほろりと、私の目から涙がこぼれた。



見上げると、ティガの白い指が、私の涙をそっと払ってくれた。


「……泣けた。今の。……めっちゃ、沁みた。……ありがと。」


素直にそう言ったら、ティガはやわらかく微笑んだ。



それだけで、充分だった。

絶望の渕にいたはずだったのに、いつの間にか私は苦しみを死で終わらせようとしなくなった。


まだ、生きられる。

ふてぶてしく、強く、いられる。



自分にそう言い聞かせて、私は身体の治癒に専念した。


***


春が駆け足で過ぎ行き、夏がやってきた。

さすがに私の傷は全て塞がり、骨折した足首の痛みも消えた。


完全復活した私は、ふたたび剣のお稽古を始めた。

……これまでと違って……もしかしたら、今後、使うこともあるかもしれない……漠然とした不安を払拭しようと自然と熱が入った。



ティガも思うところがあるのか、たまに相手をしてくれた。


イザヤやドラコには及ばないものの、ティガの教科書通りの剣筋は合理的で勉強になった。




リタのお腹は、目に見えて大きくなっている。

しかし、リタの妊娠を知って以来足繁く通っていたドラコの訪れが、ぴたりと止んでしまった。



「オピリアに不穏な動きがあったらしく……遠征が早まるようです。」


ドラコからの書状を一読して、ティガはリタと私にそう説明した。



「ドラコ……戦場に、行くの?」

リタが不安そうに問い直した。



ティガは眉間に皺を寄せて、頷いた。



私の中にも、不安がどんどん膨らんでゆく……。


ミシルトが引っ掻き回しているのだろうか。


イザヤは?

巻き込まれてはいないだろうか。




私たちは、あれ以来、連絡を取っていない。


……イザヤはともかく、鳥の伊邪耶が元気かどうか……たまには知らせてくれたっていいのに。


「遠征の前に、帝国内の内通者と近隣に潜む不穏分子を炙り出して、粛正がありそうですね。……杞憂だといいのですが……。」