ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「……なるほど。それが、お昼寝なのね。……まあでも、そのきらびやかな格好、納得~。」


近衛騎士団だもんね。

あんまり騎士っぽくはないけど、とりあえず王族を守ることが役目なのよね?



「戦いのシュミレーションはされてますよね。盤上で。」

笑いを含んだティガの言葉に、イザヤはますます不機嫌そうな顔になった。



「……チェスか何か?」

そう尋ねると、ティガの眉毛がぴくりと動いた。

「まいらのいたニッポンでは、チェスもありましたか?ショウギやイゴだけでなく?」

「うん。まあ、盛んじゃないけど。てか、こっちでも囲碁あるの?」


ティガは黙ってうなずいた。



イザヤが、ふうっとため息をついた。


「長い間、この世界は複雑な形状で均衡を保っていた。……イゴのように。」



ドカリとソファに座ったイザヤはそう語り始めた。


「多少の小競り合いがあっても、隣国を攻め滅ぼそうと考える国が出てくるとは思わなかったし、ましてや、全てを平らげて統治しようなどと正気の沙汰とは思えない。なのに、着々とカピトーリは邁進し、我が国のように恭順する国も続々と増えている。残るは辺境のみ。……我が王も、重臣も、もはや保身しか頭にない。」


クッと声を出してイザヤは笑った。

青い瞳はあざけりと悲しみを孕み、やるせなさが伝わってきた。



「カピトーリは、攻め滅ぼした国に対してはどういう措置をとってるの?為政者全員殺されるわけじゃないでしょ?財産没収?代わりに統治する司令官でも派遣してるの?」

何となく、戦後の日本にやって来たマッカーサーを思い出してそう聞いた。



イザヤとティガは顔を見合わせた。

「……まいらはずいぶんと高度な教育を受けているのですね。」


ティガはそう言ったけれど、私は首を傾げた。

「どうかな。今の日本では義務教育は9年だけど、ほとんどのヒトが大学までいくから16年間通学するの。私はまだ10年め。」



そう言ったらイザヤは天を仰いでため息をついた。

「まいらの国が攻めて来たら、ひとたまりもないな。」



……いや、日本は他国を攻めませんから……たぶん……たぶん……。



「抵抗度合いによるな。……まあ、恭順した国は国民も為政者も命の保証はされる。が、財産をどの程度没収されるかはわからない。我が国は近いので、誰かを寄越すのではなく、カピトーリに併合されるだろう。カピトーリは人口が多いので、我が国の豊富な水や農作物は喉から手が出るほど欲しいはずだ。この湖は供出させられるかもしれないな。」

イザヤはそう言って立ち上がり、窓から湖を眺めた。