ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

バーンと、勢いよく扉が開く。


「帰ったぞ。どうだ?正体はわかったか?」

相変わらず、ノックも言葉もなく、イザヤが部屋に入ってきた。


「正体って!私?化け物扱い?……ムカつく。……いざやは?」

とりあえずイザヤにそう文句を言った。


イザヤは、ふん!と、顎を上げて、嫌みったらしく私に言った。


「そなたの世界では、帰宅のあいさつはしないのか?」

「おかえりなさい!イザヤ!私のいざやは?」


舌打ちしたくなる苛立ちをおさえて、一気にそう言った。


イザヤは満足そうにうなずいた。

「ここにいる。本当にこやつは愛らしいな。野鳥に餌を取られても、野鳥のひなが頭にのってきても、ただキョロキョロしてたぞ。」


はあっ!?

何やらせてんのよ!ちょっとぉっ!!



私はイザヤの手から、愛鳥の伊邪耶を取り返した。


「いざや~~~!かわいそうに。大丈夫やった?」


頬やおでこをくっつけて、伊邪耶に話しかける。

伊邪耶は目を細めて眠そうな顔をしていた。

いっぱい遊んで、おいしいご飯もいっぱい食べて幸せ、って顔だ。


……そっか。

まあ、伊邪耶やがストレスを受けてないならいいよ、うん。


ヒトのイザヤが伊邪耶を可愛がってることは間違いないらしい。




「まいらは、他国のスパイでも兵士でもなく、料理の得意な異世界の学生でした。」

ティガはイザヤにそう報告すると、楽しそうにほほ笑んだ。

「せっかくですので、何か作ってもらっては、いかがです?……今日は湖の魚を手配しているはずですよ。」


「魚!無理!捌けない!切り身しか、やったことない!」


……だって、孝義くんと2人分しかお料理したことないんだもん。


慌てて断ったけど、イザヤは首を傾げて真面目に検討しているようだった。



「まあ……王城につれてって、昼寝させとくよりは有益だな。」

しばらくしてイザヤはそうひとりごちた。


「昼寝?王城で、昼寝?……仕事、暇なの?……もしかして、近衛騎士団って、軍事教練、一切してないの?王城で何やってんの?」


戦えない、お飾りでも、一応毎日出勤してるんでしょ?




イザヤは苦虫を噛み潰したように顔をしかめて言った。


「交代で王族に(はべ)っている。……非番の者は有事に備えて体力を温存している。」