「その前に、薬だ。いや、風呂だ。」

……また、か。


げんなりしてる私を強引に抱き上げると、イザヤは切ない顔で私に頬ずりした。

イザヤの涙が私の頬をつたい落ちた。


また、胸が痛んだ。


「いっそ、このまま、2人で……」



……2人で?

どうするの?


逃げるの?

死ぬの?


……どうしたいの?



少し待ったけれど、イザヤは鼻をすするばかりで、続きを言わなかった。



もう!

決めてくれたら、私、喜んで従うのに……。




イザヤは、そのままスタスタとドアのほうへと歩き、廊下へ出た。


「ちょ。裸!やだ!服!せめてシーツ!」

「かまわぬ。」

「かまうわ!恥ずかしい!やめて!」

「……頼むから、このまま、裸のそなたを抱かせていてくれ。」


イザヤはそう言って、また溢れてきた涙をこらえるべく、上を向いた。

そして、つぶやいた。

「今なら、わかる。私も、ヴィシュナの花のように、いっそ、このまま……散ってしまいたい……そなたと2人で……。」


「……。」


妙に盛り上がっているイザヤとは正反対に、私はうつむき……小さくため息をついた。



その時だった。

低い咳払い、続いて女性の冷ややかな声が飛んで来た。


「わたくしとの約定をお忘れですか?」



びっくりして顔を上げた。

少し離れたところに、先ほどの二コルス将軍と、美しい女性が立っていた。


姿を目にするのは初めてだけど、この声と、やたらハキハキした口調に聞き覚えがあった。


このお屋敷に到着したときに、私を見つけてイザヤを呼んでくれたミシルトだ。


つやつやのストロベリーブロンドをきちんと結い上げた、どこからどう見ても上流階級の女性なんだけど……口調と態度が、なんてゆーか……。



「あら。……二コルスさま、後ろを向いてらして。異世界のお嬢さまが、お気の毒だわ。」

「はいはい。」

ミシルトの指示で、二コルスはくるりと半回転した。



……お礼を言うべきなのか逡巡していると、イザヤが不貞腐れた顔で声を張った。


「忘れてなどおらぬ。ミシルトどの。話は後だ。まいらに薬を塗ってやってからだ。」


「そうですね。お風邪を召されては、大変。……では、後ほど、お話をお聞かせくださいね、異世界のお嬢さま。」