でも、できなかった。

両の手のひらも、肘も傷でぐちゃぐちゃだったことを忘れていた。


……う……動けない。

マジか……。

どうしよう。



途方に暮れてそのまま座っていた。



***


「おい!どうした!大丈夫か!?」


たまたま通りかかったらしい大柄な男の人が、私を見つけて駆け寄ってきた。


ドラコの兵士じゃない。

黒い軍服のような格好に帯剣してる……誰?



見上げると、綺麗な緑の瞳が私を見ていた。


日焼けしたたくましい身体に傷跡がいくつも見えている。

歴戦の戦士って感じ。



「あなたは?誰?どこの部隊のひと?どうして、このお屋敷にいるの?」


そう尋ねると、黒い戦士はくしゃっと自分の黒い髪を掻き上げて、笑った。


「質問攻めだな。俺、怪しいか?まあ、怪しいよな。」


人懐っこい笑顔に、私は警戒を解いた。


「あ、いえ。ごめんなさい。……カピトーリの人じゃないのかなーって
……。」


正直、よくわからなかった。

でもカピトーリの戦士なら、ドラコの部下たちと同じ格好のはずなのに、このヒトは明らかに違う。


オーゼラの近衛騎士とも違う。


黒い装備に見覚えはないし……何より、お飾りではない、実戦を生き抜いてきた強さを感じた。




「ああ。まあ、違うな。俺は、二コルス。ヴァストークの生き残りだ。」

「ヴァストークって……オーゼラの東にあった国……。」


とっくにカピトーリに平定された今は亡き国の名だ。



「異世界人なのによく知ってるな。」


どうやら、この二コルスと言う男、ただの一兵士というわけではなさそうだ。



私は手を差し出して、お願いした。


「勉強したから。二コルス。お願い。立たせて。私の鳥が、飛んで行ってしまってん。捕まえないと。」

「や、無理だろ。その身体じゃ。おとなしく寝とけって。鳥は、俺達が探してやるから。」


そう言って、二コルスは、私の腕を引き、そのまま抱き上げてベッドに戻してくれた。


「ありがとう。……いざやのこと……鳥のいざやのこと、お願いします。」


どうしてヴァストークの生き残り戦士がお姉さんのお屋敷にいるのか、気になった。

でも、まあ、悪いヒトには見えないし、早く鳥の伊邪耶を確保してほしかった。