ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

「そのヒトは帰れたのに、私は帰れないの?何で?」

「さあ?そんな気がするだけです。」


ティガはそう言うと、ふいっと背中を向けて湖を眺めた。

これ以上は話す気ないってことかしら。



「リタ。意味わかる?」

ダメ元でリタにそう聞いてみた。


どうでもいいとばかりに、リタは手を振って肩をすくめた。




私はすっくと立ち上がった。

「じゃあ、ティガ。湖のことはイザヤに頼むから、ティガには色々教えてほしい。私、この世界をもっと知りたい。他国を攻めてるっていう隣の国のこと、戦えない騎士しかいないこの国のこと、詳しく教えてもらえる?」


ティガに歩み寄ってそう言ったら、リタが

「それだけ知ってりゃ充分だと思うけど……」

と首を傾げていた。



こんなの、知ったうちに入らないよ。






「まいらは、何が得意ですか?」


唐突にティガにそう尋ねられて、私はちょっと考えた。


「……自信があるのは、記憶力と……料理かなぁ……。」



中学2年の夏休み、孝義くんのお家で料理の楽しさを覚えた。

以来、平日は自分の分といっしょに、孝義くんにお弁当を作り続けている。


本当は、毎日、孝義くんのために食事を作りたい。




「ああ、それはすばらしいですね。……では、また、何か作ってください。……こちらには、まいらの世界のような道具や機械はありませんが。」


……なるほど……電気もガスもなさそうやもんなあ……。

まあ、キャンプやと思って、やれるだけのことはやってみましょう。


大丈夫。

バーベキューは慣れっこやもん。



私は、敢えて、力強くうなずいて見せた。


***


外が賑やかになった。


何かあったのかな?


窓際のティガを見る。


「イザヤどのがお帰りになりました。」


ティガの言葉に、私もまた窓際に寄ったけど、イザヤは既に建物内に入ったらしく姿を確認することはできなかった。


「いざやもいる!?……てか、ここも窓開かないの?」


軽く窓を叩いてそう言ったら、リタが笑った。


「開けたら、風雨や虫が部屋に入っちゃうじゃん。火矢を放たれたら丸焼けだし。」


……なんてゆーか、感覚と用途が違うんだなってことはわかったよ、うん。

火矢、ね。




音が近づいてくる。

ガチャガチャと鳴ってるのは、帯剣?勲章?


うるさい男やなぁ。