しばらく突っ立っていたような気がする……けど、そのうち、諦めたらしく、部屋を出て行った。


……そういえば、この部屋ってイザヤの寝室なのに……独占して、追い出しちゃったのね……。


申し訳なかったかな……とも思ったけれど、すぐに気づいた。

既に結婚してるんだから、お姫さんのベッドに行かはるわ。

気にする必要ないか。


……あーあ。


うん。

やっぱり、これ、失恋だわ。


おかしいなあ。

イザヤの私に対する気持ちに嘘はないって、わかってるのに……もう、無理だ。


私、独り占めしたかったみたい。


ごめんね。

もう側室でいたくない。


イザヤのこと、あきらめる。


しんどいもん。

苦しいもん。



……こんなはずじゃなかったんやけどなあ……。



イザヤに逢いたい一心で、夜を徹してカピトーリにやって来たのに……あの情熱はどこに消えてしまったんだろう。


これじゃ、諦めるために来たみたい。


おかしいなあ。

どうしてこうなっちゃったんだろう……。



頭の中がぐるぐるしている。


体中の傷も痛いし、足もズキズキしている。


でも一番痛いのは……胸だ……。

苦しい。

痛い。

苦しいよ。


助けて……。

誰か、助けて……。




チュン……と、小さく鳥の伊邪耶が鳴いた。



私はむくりと起き上がり、鳥かごから伊邪耶を出した。


伊邪耶はうれしそうに私の肩に飛び移り、ちゅくちゅく言いながら、私の頬に嘴をくっつけた。

慰めてもらってるみたい。


愛しさが、胸に広がる。


「いざや。一緒に行ってくれる?私と。」


そう聞いたら、伊邪耶は私の肩から器用に鎖骨をたどり、胸元から首を伸ばして、私の唇に嘴をくっつけた。

甘噛みにもならない、優しい嘴のキスに慰められた。


「うん。行こうか。」

伊邪耶が落ちないように片手でそっと守りながら、私はそろそろと歩き始めた。


折れた足に激痛が走った。

……さすがに添え木だけでは、ギプスのようにはいかないらしい。



ベッドにも戻れず、私は床にへちゃっと崩れ落ちた。



鳥の伊邪耶が私の元から飛び立った。

そのまま部屋を出て行く伊邪耶。


……置いてかれちゃった……。

どうしよう……。


とりあえず、伊邪耶を追いかけなきゃ。


とても歩けそうもないので、私は床をずりずりと四つん這いで歩こうとした。