「迷ったのか……。」


ボソッとつぶやいたイザヤを睨んでから、お姉さんはもう一度謝った。


「ごめんなさい。その縁談もね、イザヤは最初は断ったのよ。でも、私が勧めたの。これ以上ない後ろ盾が得られると思って。……もちろん、こうしてまいらと逢えるなら、私も断ったわ!……でも、ごめんなさい。もう……結婚しちゃったのよ。……ね?」


へ?

もう、って……。



視線を移すと、イザヤは眉間にしわを寄せて口をへの字に結んでいた。


……どんなに歪めても、綺麗な顔は得だなあ。


そうか。

結婚したのか。



……ふふ。

間に合わなかった……とか、そーゆーんじゃない。


そもそも、止められる話じゃないし。



たとえ私がずっとそばにいたとしても、縁談は断り切れるものじゃなかっただろう。




私は、小さく

「そうですか……。」

とつぶやいた後、気を取り直して身の振り方を尋ねた。



「じゃあ、私、どうしよう?……えーと、奥さんにご挨拶したほうがいい?……てか、ここにいないほうがいいんじゃない?オーゼラの館に戻ろうか?」


嫌味でも何でもなかった。

元々、それも仕方ないかと思ってたし。



でもイザヤはものすごーく傷ついた顔をした。


何だか、泣きたくなってしまった。


まるで私が加害者みたい。

そんなつもりないのに。



……私……やっぱり、ここに来るべきじゃなかったのかな……。



「ごめん。カピトーリでのイザヤの状況、わかってへんくて……私、突っ走って、迷惑かけたんやね。……帰る。ティガに連絡してもらっていい?迎えを寄越してくれると思う。」


悲しいけれど、ここに私の居場所はなかったようだ。




お姉さんは、困ったようにイザヤを見た。



イザヤは唇を噛んで、突っ立っていた。



重苦しい沈黙が広がった。



私は、そっとベッドに寝転んで、シーツを頭までかぶった。

これ以上、話すこともない。


「……眠らせてくれる?……しんどいねん。」


それだけ言って、2人に背中を向けるように寝返りを打った。



「ごめんなさい。……とにかく、今は、傷を癒やしてね。何でも欲しいものを言ってちょうだい。」



お姉さんの気遣いにも返事できなかった。



イザヤは何も言わなかった。