「姉上だろう。……どうぞ。」

そう声をかけながら、イザヤは立ち上がり、ドアを開けた。


イザヤのお姉さんが入ってきた。


「ご無沙汰してます。お姉さま。……あの……ご迷惑をかけて、すみません。」


とりあえず謝った私に、お姉さんはふるふると首を横に振った。


「謝ることじゃなくてよ。それに、気を遣わないで。自分の家だと思ってゆっくり癒やして。まいら。大変だったわね。かわいそうに。こんなに傷だらけで……。」


イザヤによく似た美しい面差しが歪んだ。

お姉さんの瞳に涙が滲む。



私は、慌てて明るい声で言った。

「ありがとうございます。でも大丈夫です。イザヤにもお姉さまにも逢えて、すごくうれしいです。」


嘘はない。

でもやはり無理があっただろうか。



お姉さんは黙って私の頭を抱えるように抱きしめた。

甘い花の香りに包まれて……私は、ほうっと息をついた。


でもお姉さんから細かい震えが伝わってきて……驚いて顔を上げた。

お姉さんは涙をこぼしながら、私に頭を下げた。


びっくりした!


「ごめんなさい。もう二度と逢えないと思ってたわ。うれしいのに。逢えてうれしいのに、私は、まいらに謝らなければ……。」


「いや、姉上のせいでは、」

「いいえ!私が勧めたのよ。……私が、読み間違えたの。まいらは、イザヤのために、ティガに……」

「姉上!それは違うと何度も申し上げたではありませんか!」



突如はじまった2人の言い合いに、私は、ぽかーんとした。


完全に置いてきぼりではあるが……言葉の応酬から、何となく、話が見えてきた。


……つまり、何か?

私が、イザヤの命乞いのためにティガに身を捧げた……と、お姉さんは思ってるわけね?


はは……は。

いや、イザヤを捨ててティガに乗り換えたと思われるよりは全然マシやけどさあ……うーん……。


まあでも、お姉さんがそう信じてたなら、イザヤもつらかったよね。

再会して、以前と変わらず、求められ、愛情を注いでくれたイザヤに、感謝しなきゃね。


……たとえ、お姫さんと結婚しても……。


胸に広がる悲しみを飲み込んで、私はお姉さんに明るく言った。


「大丈夫です。私は何も変わってません。ティガもお館のみんなも、丁重に扱ってくれてました。イザヤがまた他の人と結婚すると聞いて、飛んで来ちゃいましたけど、……こうして逢えて、落ち着きました。もう、迷いません。」