心配そうに私を覗き込んでいるイザヤの顔を見つけて、……ほっとした。


「イザヤ。……着替えたい。」

「そうだな。高熱が続いたからな。……身体を拭いて、薬も塗り直したほうがいい。」


イザヤは、実にてきぱきと世話を焼いてくれた。


……破傷風に神経質な人だったことを、ぼんやりと思い出した。


「何か食べられるか?薬の前に、フルーツでもスープでも、口に入れたほうがよい。」


食べ物……お腹すいた……。


「生クリーム食べたい。レモン水飲みたい。炭酸にレモン搾って飲みたい。赤身の近江牛食べたい。生で。」


口を突いて出たのは、元いた世界の自宅で、いつも普通に食べていたものたちだった。



うちには、何本もレモンの木があって、年中、毎日でも好きなだけレモンを食べられた。

この世界にもレモンはあるし、イザヤの館では普通にいただいてきたけれど、リタによると、レモンもけっこう高価な物らしい。

我が家のように気軽に消費してちゃダメだったみたい。


まして、生クリームはともかく、近江牛はあるわけない。



私は慌てて誤魔化した。


「ごめん。寝ぼけて変なこと言った。……お腹すいたから何でも食べられるよ。ありがと。……私、どれぐらい寝てたの?」


「そうだな。半日ぐらいか。姉上も心配して何度も様子を見に来たぞ。……レモン水と生クリームと、生の牛肉だな?」

「……うん。ありがと。」



イザヤは、一旦部屋を出て、またすぐに戻って来てくれた。


「とりあえず、レモンを絞った水だ。レモネードも作ってくれるらしい。そなた好きだろう?」


「うん。ありがとう。いただきます。」

大きめのコップになみなみと注がれたレモン水を、ごくごくと飲み干した。


何となく、頭が少しスッキリした。



「……ティガにバレた?」

恐る恐る聞いてみた。


イザヤは苦笑した。

「さぁな。見張りの兵が増えたからバレたかもな。……そうだ、私宛にも書状は届いたぞ。まいらの姿が消えたから心配している、と。元の世界に帰った可能性もあるが、ともあった。返事は、これからだ。こちらで無事保護したから心配無用と送っていいな?」


すぐには返事できなかった。


「……大丈夫?イザヤの立場、悪くならへん?」

とりあえずそう聞いてみた。


イザヤが返事する前に、部屋のドアがノックされた。