ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

手を伸ばせば、簡単に掴めた。

流れに逆らうように、縄を引っ張って、少しずつ進んでみた。


水流が轟音になっているところで、進むのをやめた。

どう考えても、滝ほどの高低差がありそうだ。


私は、縄をつたい、トンネルの端へ端へと移動した。


船溜まりの端に歩けそうな空間ができ始めていた。

どうやら外までつながっているようだ。


思い切って、縄にぶら下がって舟を捨てると、私は歩き出した。


……確かに、濡れずに歩けるんだけど……トンネルは丸いので、足許が斜めに傾いていて、すごく歩きにくい。

がんばれ、がんばれ。


自分を励まして、歩くと、すぐに放水口に出た。


……乗り捨てた小舟は、船溜まりで泊まっているようだ。

なるほど、ちゃんと水の流れを計算して作られているのだろう。

ということは、放水口から貯水池に飛び込まなくても、船溜まりから出られるのかもしれない。



……戻ろう。


仕方なく、縄の張った船溜まりまで戻った。


よく見れば、縄の先の壁にステップがついていた。

ここを上がれば地上に出られるということか。


そこに何があるか、わからない。

でも、外はまだ暗い。


大丈夫!

行ってみよう!



私は壁をよじ登った。


もう、両手ともボロボロで、ところどころ血が滲んでいる。

けど、不思議と、痛みをあまり感じなかった。



見上げれば、鉄格子の向こうに夜空が見えた。


コレは、工事用の縦坑(たてこう)なのだろう。


そーっと力を入れたら、けっこう簡単に鉄格子が浮いた。


音がしないように、そろりとずらしてから……何も変化がないことを確認した。



しばらくして、ゆっくり頭を出した。

そこは、なだらかな山の中腹だった。


眼下にカピトーリの街が広がっていた。



たぶん真夜中……それも夜明け前だろうに、先ほど見下ろしていた里の街とは違い、街灯も建物の灯りも輝いていた。


大都市だ。

すごい。

これは、すごいぞ。


オーゼラとは比較にならないわ。


宵の口の夜景は、さぞや見事だろう。


……いやいや。

見とれてる場合じゃない。


明るくなる前に、イザヤの所へ行かなきゃ。


よくわからないけれど、山道を下っていった。

まんまと2つの山脈も、関所もスルーして、カピトーリの都市部へ進入を果たした。