ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

ふらふらするけど、休んでる暇はない。


誰の目もないことを確認しながら、杭を越えた。


取水池の岸辺にはボートが並んで浮いていた。

中でも、もっとも小さいボートを勝手に借りて乗り込んだ。


オールは、なかった。



かなり不安だったけれど、水はカピトーリに向かって流れている。

大丈夫!

ただ乗ってたら、勝手に運んでくれる!



私は、船底に寝そべった。



すぐにトンネルに入った。

ここから2里の行程の半分以上が、トンネルだ。


こうもりっぽいものが飛来してるし、蜘蛛の巣なんかもありそう。

怖いと思ったら、何でも怖くなる。


気づかないふり。

何にも見えない、何にも聞こえない、わからない。

私は、ただ、水に運ばれてカピトーリへ行くだけ!


そう言い聞かせて、目をつぶった。



「ひっ!」

顔に何かが触れた気がして、思わず小さな悲鳴を上げた。


慌てて口を抑えて……覚悟を決めた。


寝返りを打ち、ほとんどうつぶせになった。



たまぁに背中に何かが触れて行ったけれど、何も感じないふりを貫いた。



そして、そのまま私は眠ってしまった。


……ずっとボートを漕いでいた疲れが出たのだろう。



水はゆったりと、しかし確実に私をカピトーリへと運んだ。





トンネルが終わると、さすがに空気が変わったらしい。

夜風の冷たさに、目覚めた。


星を見上げる。

眠ったのは、わずかな時間のようだ。


もっと寝たいけど、ここからはさらに気をつけなきゃ。


こんな真夜中に、山の端を通る水路なんか、誰も見てないだろうけど、用心を重ねて低い体勢をキープした。



小さな里を見下ろして通り過ぎるはずなんだけど、灯りがついてないのでよくわからなかった。




再びトンネルに入った。

何となく、水の流れが速くなっている。

そろそろゴールだろうか。


ゴールは、確か……貯水池に放流されるはず。

この速度は、やばい。

たぶんけっこうな高低差があるはず。

滝の上からボートで飛び降りるようなものだ。


ダメだ。

どうしょう。


……いや、待て。

船溜まりがあるはずだ。


落ち着け。

まだ行ける。

がんばれ。




すぐに、少し広いところに出た。


ここが船溜まりだろうか。



あ、縄!

縄が、トンネルの上部に張り巡らせてある。