ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

すぐにティガの追っ手に捕まるだろう。


街道ではなく、道なき草原や畑地は見晴らしがよすぎて、やっぱり目立つ。


だからと言って山を行くと、別の危険がある。

遭難、山賊、追い剥ぎ……。


そもそも道もよくわからんし。



つまり、街道しか選択できない。

ティガもそう考えてくれるだろう。


だから、陸路を避けて、湖と水道を進むことにした。


……ただ、私がボート遊びが好きなことも、ティガは知っているので、いかにも早朝、馬で出発したとしか思えない証拠を作ってきた。


おにぎりを作った形跡も、足音も扉の開閉音も隠さなかった。

馬の背から落ちた荷物にも騙されてくれるだろう。


ただ1つ問題があるとすれば……この小舟がなくなったことに誰かが気づくかもしれない。


だから、敢えて出発を遅らせた。


ティガは私の脱出に気づいた段階で、馬もボートも、念のために輿や馬車も確認しただろう。

馬だけがなくなっていれば、選択肢は馬か徒歩しかない。


まさか、すぐそばに一日中隠れてるとは思わないだろう。


逃走の基本は、やはりスピードだ。

長時間のロスは有り得ない。



……我ながら、暢気だわ……。

とか言いつつ、オールを回す手は勝手に速まってるけど。



イザヤのようにはいかない。

筋力も筋持久力も足りない。

でも、漕がなきゃ前には進めない。


私は黙々と漕いだ。



疲れたら、星を見上げた。


きらきら輝く月の天の川は、イザヤのもとまで繋がっている。

そう思えば、頑張れた。


そこにあるのが、何なのかわからないまま、私はイザヤを目指した。



***


星の移動から計測して……んー……5時間ぐらいかな?


ようやく、オーゼラの王城が見えた。

さすがにインペラータの兵達が常駐しているらしく、こんな夜中でも松明が煌々と燃えている。


見つかると面倒なので、大きく迂回して、北へ向かった。




カピトーリへと続く水道の取水口は、静かなものだった。

もともと管理小屋すらない。


河川との違いは、湖との境に細かい杭や網が張り巡らせてあること。



……つまり、ここからはこのボートでは進めない。

私は、なるべく目立たない藪の中にボートを繋留して、上陸した。



うわぁ。

長時間ボートで揺られたから、足元がぐらぐらして、気持ち悪い。


酔いそう。