ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

どうせやることもないので……体力と気力の温存のため、目を閉じた。


そうして、そのまま眠って時を過ごした。


***

「まいら。いるんでしょ?」


どれぐらいたったのか……リタの声で目覚めた。


「……ふあい。おはよ。……戦況は、いかが?」


湯壺の蓋をあけても、あまりまぶしくなかった。

もう夕方ぐらいなのかな?



「いた。よかった。……まいらの狙い通り。ティガは馬を追わせたよ。まいらが馬でカピトーリに向かったとすっかり信じちゃってるわ。ちょうど街道の分岐する宿場街で、荷物だけ落ちてたってさ。そのまま馬か徒歩か、あるいは山越えかとも考えて、追うのはやめたみたい。たぶん、街道で待ち伏せだけ。……午後から夕方にはカピトーリに到着すると想定して、ドラコに遣いを出してたよ。でもドラコもシーシアさまのところにいるから、カピトーリに駆け付けられないみたいで、部下に指示することしかできなかったみたい。……ラッキーだったね。」


リタの報告を、私はうーんと伸びながら聞いた。


「あー、めっちゃよく寝た。心身共に、スッキリ。ありがとう。リタ。……じゃあ、舟で行くわ。」

「うん。気をつけて。あ、先に私が出るね。」


リタがそういって、出て行った。



そうっと覗くと、お付きの侍女と、少し離れたところに警備兵が、それぞれランプを持って館のほうへと移動していた。



既に西の山脈の上だけがかすかに明るい……そんな時間だった。



暗闇が戻ったところで、私も浜辺へ出た。


いつも使ってるイザヤのボートじゃなくて、……どこからか流れ着いた古い小舟を拝借して真っ暗闇の湖に漕ぎ出した。


とにかく岸辺から離れてから、夜空を見上げた。

月の欠片たちの天の川が、キラキラと輝いていた。。


イザヤに教わった星を見て方角を計る。


目指すは、オーゼラの王城の北方半里。

カピトーリへ流れる水道の取水口だ。



夜風は少し冷たいけれど、すぐに身体が火照った。

気持ちいい。


独りで、とんでもない冒険を始めたというのに、……妙に落ち着いていた。


むしろどうして今まで行動に移さなかったのか、不思議な気がした。


危険は承知の上だ。

わかっている。


だから、いっぱい考えた。



普通にカピトーリを目指すなら、街道を行けばいい。


でも、女一人で往来するのは、馬でも徒歩でも目立ち過ぎる。