ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

心が壊れそうにつらいときは、思いっきり泣くか、寝られるだけ眠り続けるか……それがストレス発散になると、お父さんから聞いたことがある。

私はあまり泣かないほうなんだけど……それにしても、こんな時ぐらい泣けばいいのに。


……いや。

為すすべがないのなら泣くしかないかもしれないけれど……私にはまだできることがある。


イザヤに会いに行こう。

このまま悶々としてたって、仕方ない。


もし本当に、お姫さんと結婚すると言うのなら……もう、やめよう。


イザヤのことはすっぱり諦めて、私は私の生きる道を考え直そう。

さすがに惚れた男が自分以外の女と2度も結婚するのを黙って見てられへんし、……耐えるつもりもないわ。


よし!

行こう!



***

夢か(うつつ)か……。


私は、ぱっちりと目覚めた時、既に行動する事を決意していた。



夜が白みかけている。

ちょうどいい。

決行だ。



身体を起こすと、すぐに行動にうつした。

必要最低限の携帯する荷物を作るとともに、いかにも着替えや毛布を詰め込んだ大きな荷物を作った。


そしてまだ早すぎて誰もいない台所に入り込み、大量のご飯を炊いた。

少し多めに塩を混ぜ込み、すっぱい梅干しを多めに入れたおにぎりをいっぱい作った。


一番大きな水筒を勝手に持ち出した。



そして、足をしのばせることもなく普通に玄関から館を出ると、隣接する馬屋へ向かった。


イザヤの愛馬だった白馬はいないけれど、それでもまだ何頭もの馬が飼育されている。

その中で一番大きな馬に、大きいけれども布ばかりで軽い荷物を適当にくくりつけた。


……途中で落ちてしまうことを想定して、緩やかに結んだ。




「じゃあね。強く生きてね。健闘を祈る!行けっ!」


かわいそうだけど、馬のお尻に鞭を当て、カピトーリへの道を走らせた。


荷物を結わえた馬がどんどん小さくなってゆくのを見届ける前に、私は浜の温泉へと向かった。


湯壺の温泉を捨ててしまい、新たな温泉が入らないように注ぎ口に栓をした。

からっぽの湯壺に、よいしょと入る。


空気が通るように隙間をつくって湯壺の蓋を閉じた。

ほの暗い狭い空間に、多少の息苦しさを感じた。



慣れてくると、眠くなってきた。


お湯は捨てたのに、何となくあったかいからだろうか。