ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

また、か。

よくよく、そんなレアケースにばかりぶち当たるもんだ。


「イザヤは?結婚するって言ってるの?」

……さすがにもし結婚決めたなら、私への書状に書いてくると思うんだけど……そんな記載は一切ない。


ティガは肩をすくめた。

「皇族の要請を断ることなど、誰も出来ませんよ。……イザヤどのが、カピトーリに留まるのなら……いや、インペラータの支配するこの世界で生きるなら、姫君さまを拒むことは不可能でしょう。」



あ……そう……。

そういう感じなんや……。


何だか、笑えてきた。


ほな、もう……しょうがないやんか。

私の存在なんて、何の問題でもないんだ。


……やっぱり、私、側室に逆戻りなのかな……。



いや。

側にいてこそ、側室よね。

こんな風に離れたところで暮らしていて……何が側室だ。




自嘲する私に、ティガは苦笑した。

「……イザヤどのが皇族の姫君をお迎えされるなら、これ以上の庇護はありませんね。……もはや、私がイザヤどののお命を餌にまいらを留めることはできなくなります……か。」

「ふーん?じゃあ、私、自由になるの?」

あまり期待せず、聞いてみた。


ティガは抑揚のない声で言った。

「姫君さま御降嫁の後で、落ち着かれましたら、またイザヤどのの側室にしていただけるんじゃないですか?」



……言葉が出ない私の代わりに、リタがいきり立った。

「はあ!?何?それ!信じらんない!」


憤慨するリタを、慌ててなだめた。

「リタ。胎教に悪いから、怒らない怒らない。」


「だって!そんなの……ひどいよ……。まいら、私の母と同じ立場になっちゃうんだよ?……王の姫君さまだよ?イザヤどの、どんなにまいらが好きでも、姫君さまに遠慮しなきゃいけないんだよ?」


リタの両目から涙があふれ落ちた。

ぽろぽろと子供のように悔し泣きするリタ。


さすがに、ティガは堪えたらしい。


しょんぼりオロオロ、リタをなだめようと、謝罪の言葉を繰り返した。



私は、そんな二人に会釈だけ残して、自分の部屋へ下がらせてもらった。



頭の中も、心の中も、何だか、からっぽになってしまった……。


とりあえず、ベッドにダイブした。

泣きたいんだけど……なぜか、涙は出てこなかった。


私はそのまま、気を失うように、眠りに落ちてしまった。