ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

リタが明るく返事している横で、私はイザヤからの書状を開いた。


楽器資料館建造の進捗状況や、楽器の手入れの話、宮廷で演奏した話……と、まるで報告書だ。

まあでも、宮廷で演奏は、よかったね。

たぶんファンも増えるよ。

これからも、イザヤの活躍の場が増えるといいな。


……なんとなく……充実感をうかがえるような気がして……そんな、焦って、行かなくていいかなーとも思った。


おとなしくティガが連れてってくれるのを待っていようかな……。



そんなのん気な目論見は、ティガの言葉で弾け飛んだ。


「ああ、そうだ。ドラコから言付(ことづ)かりました。まいらへの手紙には書いてないそうですが、イザヤどのの縁談が決まったようです。」



パチーン!と胸の中で何かが破裂したような衝撃を受けた。



心が凍りついてゆく……。



固まってしまった私を見かねたらしく、リタがティガに食ってかかった。


「ちょっと、無神経じゃない!?」



ティガが困ったように、後ずさりした。

「いや、リタ。落ち着きなさい。決まったというだけで、具体的なことは……」


「……ドラコ、何て言ってたの?」

ティガの思惑は無視して、ドラコの正確な言葉を尋ねた。



相変わらずやぶにらみしているリタを気にしながら、ティガは教えてくれた。

「王宮でサロンコンサートを開くようになってから、イザヤどのは王族のみならず並み居る貴族の女性たちから思慕されているようです。亡国の騎士の肩書きがロマンティックだとか。ただ、インペラータでの地位も身分もありませんので、普通レベルの貴族にとっては婚姻相手としては対象外、火遊びの相手として人気ということのようだったのですが、……皇帝の姪にあたる姫君さまが、イザヤどのに恋い焦がれて、婚姻を望まれたとか。」

「皇帝の姪って……バリバリ皇族?……いや、ちょっと待って?確か、シーシアも、皇帝の姪に当たるんじゃないの?……何で、そんなのばっかり……。」


引きが強すぎるだろ……。

頭をかきむしりたくなった。



ティガは、ふふと微笑んだ。

「ご縁があるのでしょう。……ああ、お相手の姫君さまは、一度、白い結婚をいたされましたが、昨年帰国されておられます。とても快活で知的で美しいかたですよ。」


「白い結婚……。」