ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

……うわぁ……目に浮かぶわ、それ。


「まあ、ドラコ……真面目で誠実で不器用を絵に描いたようなイケメンやもんね。」


何の慰めにもならないけど、そんな風に同調した。



黄色い土煙は館を包み込み、次第に薄まって消えた。

到着したのだろう。




「……本当に、逢わなくていい?今、戻れば、逢えるよ?」


念のためにそう確認したけれど、リタは力なく首を横に振った。

そして、膨らみ始めたお腹に両手をあてがった。

「私にはこの子がいるから、大丈夫。我慢できる。」


かすかな笑みを浮かべたリタは、神々しく見えた。



母は強し……か。


素敵だなあと見とれた。


***

しばらくして、ドラコの馬が館を発つのが見えた。

どうやらカピトーリに戻るのではないらしい。



「シーシアのとこに行くのかな。」

暢気にそう言ってから、はっとした。



……リタにしてみれば……複雑な気持ちかもしれない。

シーシアは、心から慕っている異母姉だ。

けど、ドラコの想い人でもある。



そろりとリタを見たら……少しでもつついたら泣き出しそうな顔をしていた。


「リタ……。」


かける言葉に困っていると、リタはがんばって笑顔を作って見せた。


「帰ろうか。冷えたかも。」


慌てて私は毛布をリタに手渡した。

「大変。これ、使って。……じゃあ、岸に向かうね。」

「うん。ありがと。」


おとなしく毛布にくるまるリタを見ながら、私はオールを手に取った。



船を漕ぐと、爽やかな風が頬を撫でた。

心地よさに目を細めて……つい、また歌い始めてしまった。


それも、変な部分だけを……。



♪ 志賀の都よ いざさらば ♪


志賀の都って、滋賀県の県庁所在地の大津でいいのかな。


……この世界に置き換えると……やっぱり、オーゼラの王城だよね。


王城からこの館まで8里なので、約30km。


イザヤは、馬を走らせて1時間ぐらいかかって王城へ通っていたようだ。

結婚式の時、4頭引の馬車では2時間以上かかっていた気がする。



……カピトーリはそこから直線距離で3里だけど、2つの山脈を超える。


つまり、カピトーリからこの館までは12里だから、約50km近く離れている。


早馬で2時間、普通に並足で馬に駆けさせて5時間ぐらい。