ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物

またじんわり涙が浮かんできた。


「ほら!泣かない!……陽気な歌でも歌ってよ。気分転換に。」

「陽気……?」


そんなこと言われても……


ざざーっと、音を立てて風が通り抜けた。

髪がさやさやとそよいで……。



導かれるように私の口をついて出たのは……あまり陽気ではない古い唱歌だった。



♪わ~れ~は、う~み~の~こ~さす~うらあいの~♪



「はあ?何て?」


リタに突っ込まれて、私はちょっと笑った。


「えーとね、この世界に来る直前に乗ってた船で流れてた曲。湖の歌?ご当地ソング?」


そう答えたら、リタはふーんと納得したらしい。


「湖の歌、ね。いいよ。歌って。」



リタの許可を得て、私は覚えてる限り歌ってみた。

確か6番まであったはずなんだけど……1番と4番しか、ちゃんと覚えてなかった。


♪われは湖の子 さすらいの

旅にしあれば しみじみと

のぼる狭霧や さざなみの

志賀の都よ いざさらば♪



♪瑠璃の花園 珊瑚の宮

古い伝えの 竹生島

仏の御手に いだかれて

ねむれ乙女子 やすらけく♪



1番はともかく……4番は、竹生島行きの船で聞いたから印象強かったみたい。




「……わかったような、わかんないような……」


リタの感想に、私もうなずいた。


「だよね。湖をぐるっと廻ってる歌みたい。……うわ。なんか、土煙きた。」




岸のほうに、黄色い粉塵が走っているのが見える。

横から眺めるのって、けっこうおもしろいな。


鳥の伊邪耶はいつもどんな気持ちで私達を俯瞰してたんだろう。

……逢いたいなぁ。



また泣きそうになったけど、リタの顔色が変わったのを見て、私にも緊張感が移った。


「ドラコが来たみたい。……ティガ、私のこと、知らせたのかな……。」


不安そうなリタの手を、私は思わず握りしめた。


「違う違う。ティガは何も言わないって言ってたから。安心して。……ドラコ、定期的に来てるの。情報と一緒に、イザヤの書状を持って来てくれたり。……たいしたこと書いてないけどね。」


リタは、小さく息をついた。

「そうなんだ。……産むと決めたからには、ドラコに隠し通せるものじゃないとわかってるけど……どんな反応されるかと思うと……まだ、怖いし、言いたくないみたい。……喜ぶわけないし。びっくりして、戸惑って、……いっぱい考えた末に、私の意志を尊重して、自分も父親になるとか言い出すんだろうな。そんなの、うれしくない。」